本研究は人文学分野における地域課題の解決を念頭に、近世熊本の地誌資料の一つである『菊池風土記』をテキストから見直し、通行の活字本を批判的に乗り越え、信頼すべきテキストを紹介し、さらには難解な記述については註釈を加えることで、広く一般を含めた学問成果の還元をはかることにある。 研究期間を通じて、東洋文庫本、太宰府市公文書館寄託大江田家資料本、そして「肥後文献叢書本」など幾つかのテキストを収集し、比較検討しながら、比較的善本と考えられる熊本県立大学蔵中嶋真親写本をベースに翻刻を行い、そこに諸本比較を加えながら註釈を付す作業を行った。註釈は、相当に多方面にわたる話題を扱うことから、研究期間内では全七巻のうち巻一について、ひとまず註釈を終えた。また、研究期間内には、地域連携の観点から菊池市当局の協力を得、『菊池風土記』中に記される主要な社寺、遺跡を見て回ることができた。 期間内の研究成果をふまえながら、最終年度には三冊本の熊本県立大学蔵中嶋真親写本の第一分冊(巻一・巻二)を、熊本文化研究叢書第9輯として影印刊行した。また新たにホームページを立ち上げ、インターネットを利用して巻一の註釈を公開した。なお、『菊池風土記』巻一の註釈の過程で、特に同巻に収録される『菊池万句発句』についての研究を深め、その成果を平成26年度熊本県立大学日本語日本文学会において「「菊池万句」をめぐる基礎的問題」と題して研究発表を行った。これは学生の地域理解促進と研究成果の教育的還元を意図したものである。 特に菊池市在住の方や、菊池市ゆかりの方々からの問い合わせも数件あり、原文のままでは難解な内容も、研究の成果をふまえながら広く読まれるものとしていくことが、郷土にかかわる文献に求められていることを示している。その点に、本研究の意義は明確に窺われることと思われる。
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