研究課題/領域番号 |
24520230
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 昭和女子大学 |
研究代表者 |
山本 晶子 昭和女子大学, 人間文化学部, 准教授 (90245879)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 狂言 / 馬瀬狂言 / 中世芸能 |
研究概要 |
研究計画〈1 馬瀬狂言資料の収集・分析〉として、「馬瀬狂言資料の紹介(7)―馬瀬における「船渡聟」の変遷―」(『学苑』 867号,pp.44-62,2013/01)をまとめた。本稿では、馬瀬狂言保存会所蔵の狂言台本の中でも古い年記を有する文化八年の「船渡聟」を翻刻・紹介し、その位置づけを明らかにした。また、文化八年本と現行の上演台本や映像記録を比較することで、現在の形へとどのように変遷したのかについても言及し、馬瀬狂言における芸の伝承のあり方についての考察を行った。その結果、この文化八年本は、和泉流の中でも山脇派の『和泉流秘書』(愛知県立大学図書館蔵)から雲形本へと移行する実態を反映した台本であること、また現行台本においては、文化八年本の省略化・簡略化がなされながらも伝承されていることを明らかにした。本稿で指摘した内容は、江戸中期から後期にかけての和泉流台本の伝播の一端を示すものでもあることから、その点についても更に考察を進める必要がある。 〈2 他の地域に伝承された狂言資料、辻能や新興芸能資料の収集・分析〉においては、特に新興芸能資料について、主要新聞社のデータベースを活用した記事の収集や台本の収集を中心に行った。照葉狂言の資料としては『照葉俄早合点』『照葉狂言杓子定木』等の原本も収集し、分析を進めた。 〈3 馬瀬狂言の演能活動の調査・資料収集〉では、平成24年4月に行われた伊勢神宮外宮のせんぐう館での奉納狂言を撮影し、その様子について、大学のHP(日本語日本文学科の学科ページ「日文ブログ」)において報告した。また9月の秋祭での奉納狂言や同じ伊勢市内で伝承されている一色能の、一色神社例祭奉納能の撮影も行い、映像資料として活用できるようにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の第一の目的として、地方で伝承された狂言資料の調査・分析を元に、伝承曲の変遷の実態や芸の伝承のあり方を解明することとしているが、成立時期の異なる馬瀬狂言の台本を取り上げ、中央の流派(特に和泉流)と比較・検討し、その変遷のあり方、また台本類の取り扱い方の実態の一端を明らかにできた点は評価できる。同様の研究方法を用いて、他の伝承曲においても分析を行うことにより、馬瀬狂言資料の全体像が把握できるものと考える。 また、能狂言を元にして新しく興った、いわゆる新興芸能(吾妻能狂言・照葉狂言・今様能狂言)については、主要新聞社のデータベースや能楽関係の雑誌などから関係資料の収集を行った。これらの内容に関する分析については十分とは言えない面もあるため、更に収集資料のデータベース化を計りつつ、検討を進める必要がある。 馬瀬狂言の演能活動の調査については、複数回馬瀬町を訪れ、聞き取り調査や狂言上演のビデオ撮影等を行うことができ、順調に進められた。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画調書に示した平成25年度の研究計画に沿って、研究を推進する。 特に馬瀬狂言の狂言資料の位置づけを明らかにするため、各流派の台本研究、また地域に伝承されている狂言資料の分析も同時に進める必要がある。そのため、馬瀬狂言と関連性が認められる和泉流の台本を比較対象の中心に置き、馬瀬狂言資料の中でも、年記の古い資料や複数の台本が確認される曲を取り上げ検討する。その上で、他の地域に伝承されている狂言資料との比較を試みたい。 また、平成25年は伊勢神宮の式年遷宮の年にあたることから、関係資料の入手も行い、馬瀬狂言の文化的背景である伊勢という地域性についても資料収集をより進めることとする。
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次年度の研究費の使用計画 |
研究計画調書に示した通りに予算を執行する。なお、平成24年度に予算執行が十分でなかった各費用の状況は下記の通りである。 まず設備備品費として購入を予定していた撮影機器類については、後継機種との比較、検討を行い、操作性、利便性の面から購入を見送った。後継機種の評価や他社の同等機種等を改めて検討した上で、平成25年度に購入することとする。 旅費等については、資料調査の回数自体はほぼ予定通りであったが、日程の関係上日帰りとなって宿泊を伴わなかったため、予定していた金額より少なくなった。また人件費として、資料収集・整理補助のために予算を計上していたが、平成24年度は資料収集を中心に行っていたため、整理補助の必要が生じなかった。平成25年度には収集した資料の整理や入力補助の人件費として、予算を執行する。 更に他の研究機関所蔵の能楽関係資料も紙焼きの形で収集するため、その他の費用が平成24年度よりも増加する見込みである。 上記に示した費用により、平成24年度の余剰分については解消できる予定である。
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