研究課題/領域番号 |
24520230
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研究機関 | 昭和女子大学 |
研究代表者 |
山本 晶子 昭和女子大学, 人間文化学部, 准教授 (90245879)
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キーワード | 狂言 / 馬瀬狂言 / 中世芸能 |
研究概要 |
研究計画〈1馬瀬狂言資料の収集・分析〉 馬瀬における狂言の芸の伝承のあり方を探るため、「花子」について調査した。演じるのが難しい曲とされる「花子」であるが、馬瀬狂言には二種類の台本(明治二十六年本・中北小すゑ氏旧蔵本)が伝わる。これらを翻刻・分析したところ、両本は共通の詞章を有し、更に和泉流山脇派の詞章と『狂言記』の詞章が場面により使い分けられていることが認められた。こうした『狂言記』の詞章を一部利用したものに、馬瀬狂言独自曲「こんくわい」があり、また曲全体が『狂言記』と共通する「胸つき」等もあることから、今回調査した台本二種はこれらに続く『狂言記』受容の実態を示す好資料と位置づけられる。 また、馬瀬狂言台本中最古の奥書を持つ文化二年本には、和泉流の明和中根本と一致する詞章を有する曲(「枕物狂」)が確認された。このように曲全体が一致する例は今のところ確認されていないが、明和中根本の表現に近い詞章は他の台本でも認められ、和泉流山脇派の詞章が、馬瀬の地に伝承されていた可能性を示唆するものと言える。 〈2 他の地域に伝承された狂言資料、辻能や新興芸能資料の収集・分析〉 平成25年度に引き続き、新興芸能資料の収集・分析を行った。また地方の狂言の活動についての情報収集を行い、伝統芸能の継承を支える仕組みに関する調査を進めた。 〈3 伊勢における芸能の場についての調査・分析〉 平成25年が式年遷宮の年であったため、遷宮行事の中で行われる芸能について調査した。特にお白石持ち行事に参加し、その様子を撮影・記録し、大学HP(昭和女子大学日本語日本文学科「日文ブログ」)において報告した。また伊勢の伝統能楽まつりにおいて、馬瀬狂言に加えて、一色能、通能の上演も撮影・記録し、映像資料として活用できるようにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成25年度は伊勢神宮の式年遷宮があり、例年調査を行う8月に馬瀬町のお白石持ち行事が重なり、馬瀬神社例大祭での狂言の上演は行われなかった。また狂言の芸の伝承方法に関して、馬瀬狂言保存会の会員全員に対する聞き取り調査も予定していたが、会員の多くが遷宮行事の中心として関わっていたこともあり、十分な時間を確保することができず、主要な関係者に現在の活動状況や会員組織の構成などについて確認するのみに止まった。上記の理由により、現地での調査が予定通り進まなかった。 そのため、本年度の研究は、これまで収集した狂言関係資料の分析(特に狂言台本の詞章)を中心に進めることとなった。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画調書に示した当該年度の研究計画に沿って、研究を推進する。 特に資料調査によって明らかになってきた和泉流山脇派の台本と『狂言記』等との関連性に重点を置き、馬瀬狂言の特色を明らかにする。 また詞章の内容をより深く分析するため、映像資料の分析も進める。伊勢市内に関する芸能の映像資料の収集は順調であるが、他の地域の狂言関連の映像資料の収集は十分とは言えない。インターネットの情報等も活用しながら、資料の収集を進め、馬瀬狂言の伝承のあり方を広い視野から捉えていく。
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次年度の研究費の使用計画 |
設備備品・消耗品費については、ほぼ計画通りであったが、旅費については、先述の通り、式年遷宮の関係で、馬瀬狂言保存会関係者との調整が難しく、また聞き取り調査の対象者であった会員の逝去も重なり、現地での調査が十分に行えず、予算の執行が円滑に進まなかった。 人件費として、入力補助を予定していたが、聞き取り調査などの資料収集が十分でなかったため、これらに関わる予算の執行ができなかった。 研究計画調書に示した通りに予算を執行する。なお平成26年度の設備備品費として、本年度に購入したデジタルカメラをより活用するための備品の購入(望遠レンズやフラッシュ等)を予定している。また地方の資料収集についても積極的に取り組み、旅費や消耗品費の予算を執行する。更に馬瀬狂言保存会の会員をはじめ、近隣地域で能・狂言に携わる関係者の聞き取り調査の実施や資料分析のための入力補助などで、謝金等の予算も執行する。上述の計画により、平成25年度分の余剰分については解消する予定である。
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