(1)馬瀬狂言資料の位置づけ、並びに伝承のあり方を明らかにするために、昨年度から調査を続けていた「花子」について、「馬瀬狂言資料の紹介(8)―「花子」について―」(『学苑』891号)としてまとめ、報告した。馬瀬に伝承された本曲が、和泉流山脇派の詞章と『狂言記』の詞章を場面毎に使い分けた、混在の形であり、こうした資料が成立した背景を考察した。まず台本を書写した人物の活動実態を上演資料により明らかにし、資料の成立年代の特定(明治~大正)を行った。更に本曲に『狂言記』の詞章を摂取した理由として、当時の上演形態のあり方が関わっていた可能性を示唆した。 (2)馬瀬狂言で多用される追い込みの型(先の「花子」にも認められた)について、和泉流の資料を中心に調査を行い、その関連性を探った。結果として、明和中根本以降、古典文庫本といった山脇派の資料に同様の演出が認められ、和泉流山脇派と馬瀬狂言の関係性(時期等)を特定する手がかりになるものと推測される。 (3)現在の馬瀬狂言保存会において、狂言の芸がどのように伝承されているのか、保存会の会員に対するアンケート調査、並びに聞き取り調査を行い、伝統芸能を継承することについての意識や狂言の芸を習得する工夫などをまとめた。 (4)馬瀬狂言の記録として、馬瀬神社秋祭り(9月14日)の稽古、並びに上演時の様子を撮影・録画した。また、伊勢の伝統の能楽まつり(9月20日、於外宮せんぐう館)の馬瀬狂言の公演と共に、一色能、通能の公演も撮影し、映像資料として活用できるようにした。この様子については、大学HP(日本語日本文学科の学科ページ)において報告した。 (5)新興芸能資料の調査として、『風流照葉狂言』の原本を収集した。これまで収集した資料と共に、本資料の調査・分析を行った。
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