研究課題/領域番号 |
24520231
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 白百合女子大学 |
研究代表者 |
井上 隆史 白百合女子大学, 文学部, 教授 (10251381)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 野間宏 / 三島由紀夫 / 戦後文学 / 全体小説 / プルースト / ジョイス |
研究概要 |
①神奈川県立近代文学館蔵の野間宏「青年の環」関連資料(原稿、手入れ校正刷、創作ノート等)を調査し、今後の望まれる分類方法を検討した。その結果、発表された『青年の環』の筋やシークエンス分析と対応させる形で草稿を類別することを基本方針とする方法に従って、現在、分類作業を進めている。 ②全体小説という考え方の理論的思想的背景や、その問題点、可能性等について、幅広く検討した。具体的にはヘーゲルの芸術論、ルカーチの小説論、社会主義リアリズムの小説論、バルザック、プルースト、ジョイスらの実作、さらには1960年代以降のラテンアメリカ文学が提起する問題を、全体小説という観点から、丁寧に検証した。その上で、日本近代文学(特に戦後文学)において野間宏が唱えた全体小説という概念について、その意義と可能性を再検討した。 ③全体小説という考え方と密接に関わる想像力の問題について検討した。プラトン、フィチーノ、カント、ヘーゲル、ハイデガー、サルトルらの想像力論(構想力論)を踏まえながら、江藤淳、三島由紀夫ら戦後日本文学における想像力論の特質を考えた。 ④全体小説という考え方とナショナリズムの思想との関係について検討した。丸山真男、橋川文三の、柄谷行人のほか、ベネディクト・アンダーソン、スピヴァク、アントニオ・ネグりらのナショナリズム論も視野に収め、全体小説という考え方とナショナリズムの思想との間に親近性があるとすれば、その理想的な関係のあり方はいかなるものであるべきかということを、三島由紀夫を中心に検討した。あわせて昭和十年代の文学、思想とナショナリズムの関係についても再検討した。 ⑤戦後文学において全体小説の執筆にもっとも力を注いだのは野間宏だが、中村真一郎も海外における全体小説の考え方を積極的に紹介し、また独自の方法によって全体小説を執筆した。その代表作『四季』四部作について、詳細に分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
交付申請書においては、研究の目的(24年度研究実施計画)として、①神奈川近代文学館「野間宏文庫」の分類・分析、②野間宏「サルトル論」の読解と関連資料・文献収集、③欧米関連文献の調査・収集、④三島由紀夫、武田泰淳ら戦後作家の研究の四項目を挙げた。 このうち①については、資料数の膨大さということもあって、進展は想定に比べ遅れている。しかし、②③④は順調で、既に活字による成果発表も複数行い、計画以上に進展していると言える。 全体としては、おおむね順調である。
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今後の研究の推進方策 |
神奈川近代文学館「野間宏文庫」の分類・分析に関しては、「青年の環」の関連資料を中心に、詳細なデータベース作成を急ぐ(25年度中の完成を目指す)。 その他(野間宏「サルトル論」の読解と関連資料・文献収集、三島由紀夫、武田泰淳ら戦後作家の研究など)についても作業を進め、また欧米関連文献の調査・収集に関しては、24年度の研究過程において、文献執筆者を含む多くの国外の研究者とコンタクトを取ることが出来たので、今後は直接連絡を取り合いながら、調査、研究を推進してゆきたい。
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次年度の研究費の使用計画 |
引き続き書籍購入にために相当額の研究費が必要である。 「青年の環」関連資料のデータベース作成に関し、協力者への謝礼、在外研究者との連絡等に関する諸経費も必要となる。
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