本研究では平安宮廷歌謡『催馬楽』の基礎的研究環境を整えるため、未刊行注釈資料の収集・調査・分析とともに、既存の詞章の分析、表現史上の定位、主題をとらえながら、往時の平安宮廷人以降の当該歌謡に関する注釈・享受史を構築することを目指した。26年度においては、日本歌謡学会会長に就任し、さらに事務局を担当したことにより十分に研究に従事することができたとは言い難いものの高野辰之『日本歌謡史』、志田延義『日本歌謡圏史』による成果とともに欠落していた問題点を見直す機会を得た。また、文学研究としての方法論を模索する一方で周辺研究分野である音楽史との接点をどう取り入れていくことが望ましいのか、『催馬楽』の始発をどう理解することが望ましいのか、再検討するきっかけを得た。発刊年度は27年度になるものの日本文学風土学会編『日本文学道しるべ』には「平安宮廷歌謡と風土―『催馬楽』「竹河」の仕組み―』を執筆し、「竹河」が実態として存在する河というよりも創作性の強い名を持つ河であることを論じ、これまで『源氏物語』の巻名として著名でありながら十分に分析のなされていない同曲の詞章の考察を行った。
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