研究課題/領域番号 |
24520235
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
紅野 謙介 日本大学, 文理学部, 教授 (20195671)
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研究分担者 |
高 榮蘭 日本大学, 文理学部, 准教授 (30579107)
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キーワード | 検閲 / 植民地 / 情報統制 / 近現代文学 / 日韓関係 |
研究概要 |
平成25年度は日本と韓国における「検閲」制度の差異について協議を重ねた。とりわけ8月には鄭根埴、韓基亨、李恵鈴、藤井たけし氏らを日本に招聘し、討議の場を持った。なかでも韓基亨氏による「法域」と「文域」という概念をめぐって、大日本帝国の法体系と植民地韓国における法体系のずれ、また言語の差異とどの言語を使用可能とするかによって起きるずれがどのように検閲システムの稼働において機能したかを議論していった。これらをもとにまとめつつあるのは、以下の論文集のプランである。紅野謙介・高栄蘭・鄭根埴・韓基亨・李恵鈴『検閲の帝国──文化の統制と再生産』。目次案としては、第1部「検閲の拡張、揺れ、転移」=収録論文6本、第2部「検閲されるテクストと身体」=収録論文6本、第3部「アイデンティティの政治──検閲と宣伝の間」=収録論文6本を予定している。いずれも準備期間も含めて、この科研費のプロジェクトによって開催された研究会、国際会議で報告されたものから選んでいる。 情報統制は一律に同じように働くわけではない。言葉や表象という、その社会特有の文化的基盤によって、統制の方法や実践は異なるバリエーションを見せる。西欧的な近代化を目指す東アジアの後発国においては、とりわけそうした歴史的な「遅れ」の認識がさらなるバイアスを加える。日本は、西欧列強の帝国─植民地主義を取り入れ、非西欧圏において初めて植民地をもち、「帝国」と自称した。台湾、朝鮮半島などへと拡大した「帝国」の膨張とともに、国家による情報統制はコントロールできない不穏さを抱え込む。そのとき、どのような統制がなされ、「検閲」が実行されたか。「内地」と「外地」の区分や、法制度や運用の差異が注目される。こうした多様な複数基準や歴史的変化をとらえることが25年度の中心テーマとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
紅野謙介・高栄蘭・鄭根埴・韓基亨・李恵鈴編『検閲の帝国──文化の統制と再生産』という報告集の編集が進展している。これには紅野謙介「文学を検閲する、権力を監視する──中西伊之助と布施辰治の共闘」、高榮蘭「占領・民族・検閲という遠近法──「朝鮮/韓国戦争」あるいは「分裂/分断」、記憶の承認をめぐって」を初めとして、鄭根埴「植民地検閲と「検閲標準」」、韓基亨「「法域」と「文域」」、十重田裕一「植民地を描いた小説と日本における二つの検閲」、李鍾護「検閲の相転移、「親日文学」という過程」、金子明雄「「風俗壊乱」へのまなざし」、李恵鈴「植民地検閲と植民地セクシュアリティーの再認識」、内藤千珠子「目に見えない懲罰のように――一九三六年、佐藤俊子と移動する女たち」、李承姫「植民地朝鮮における興行市場の病理学と検閲体制」、小平麻衣子「誰が演劇の敵なのか」、李旻柱「植民地朝鮮における民間新聞の写真検閲に関する研究」、五味渕典嗣「ペンと兵隊――日中戦争期戦記テクストと情報戦」、鄭鐘賢「ペテロの夜明け──『京城地方法院(検査局)編綴文書』における「感想録」の転向語りと植民地転向小説」、榊原理智「移動と翻訳 ──占領期小説の諸相」、林京順「新たな禁忌の形成と階層化された検閲機構としての文壇」、鳥羽耕史「「原爆詩人」像の形成と検閲/編集」、藤井たけし「ある『政治学概論』の運命──ポスト植民地国家と冷戦」などの論文が集まりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、集まりつつある論文の傾向をふまえ、研究課題に即したかたちで意味づけを与えるとともに、日韓双方の認識のずれを尊重しつつ、外部の研究者に向けて成果の公表を目指す。日本語、韓国語それぞれの言語による論文集を刊行し、ソウルで公開討論会を開催する方向で検討している。論文集刊行と次の課題につづくような討論会を開催することができれば、ひとまず企画した研究課題に応えることになると考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
予定していた年度末の研究者の招聘が相手側の都合でキャンセルになったため、次年度繰越しとなった。あらためて今年度、こちらが出張するかたちで対応をはかる予定である。 キャンセルになった研究会を研究成果の発表会に切り替え、ソウルへの出張を計画している。
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