最終年度の平成26年度には、これまでの研究成果をまとめる作業を中心に行った。同年8月には紅野謙介・高榮蘭・鄭根埴・韓基亨・李惠鈴編『検閲の帝国──文化の統制と再生産』(新曜社)と題した、488頁に及ぶ大部の論文集を完成させた。このなかで1920~40年代の日本とその植民地であった朝鮮半島の検閲体制の差異、日本における敗戦と連合軍の占領下、またサンフランシスコ講和条約以降の歴史的変化、そして朝鮮の独立と占領、大韓民国成立以後の朝鮮戦争下、軍事政権以降の歴史的変化を追究し、これらが互いに差異を示しながらも相互に関係、補完し合っていることを明らかにした。しかし、前後して発行する予定だった韓国版の翻訳作業が遅れ、26年度中には実現できなかった。このため研究の終了を延ばし、一年間の延長を申請することとなった。 27年度には韓国版を完成し、双方の成果の確認を行う予定であったが、なかなかこれも渋滞。しかし、ようやく28年2月、同じような装幀のもと、やはりハングルによる「検閲の帝国」というタイトルで刊行された。これを記念して、3月26日にソウルに赴き、編者5名および韓国側の執筆者、翻訳者、大学院生たちを前に講演を行い、質疑を交わした。「ハンギョレ新聞」や「京郷新聞」など韓国の新聞各紙で大きく書評にとりあげられるなど、日本以上に大きな反響があった。 共同研究の成果を目のあたりにするとともに、同時に言語や研究文化を異にするものの共同性の組み方のむずかしさも見えて来た。韓国側研究者と協議し、ひとまず検閲をめぐる共同研究に区切りをつけ、今後は東アジア全域、中国や台湾をもふくめた包括的な研究に向けて協力していくことを約束することとなった。
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