善珠『梵網経略抄』の本文校訂作業、善珠が同書に参照・引用した『梵網経』の先行注釈書の特定、引用元と引用文との異同の確認作業などを進めた。具体的には12回の研究会を開催し、『梵網経略抄』下巻の内「第十一軽戒」から「第二十九軽戒」までの戒律(計十九戒)の規定とその注釈について上記作業を終えた。特に『梵網経』本文の諸本については中国の金石文の写真版も収集し、校訂を行った。 上記作業については『梵網経略抄』全五十八戒のうち十九戒を残しているが、最終年度であることに鑑み、年度後半より、研究会で各人がレポートとして提出した校訂本文・校異・出典のデータをWeb公開用に整理する作業に入った(研究協力者・渡部亮一氏を中心に行い、アルバイトの補助も得た)。 『梵網経略抄』から得た知見により古代日本の文化・思想・文学の読み直しをするという課題については、特に『略抄』の注釈部に興味深い問題がさまざまに見出された。たとえば、『三宝絵』などの説話集に影響を与えたであろう釈迦の前世譚が引かれている、最澄の怨霊鎮魂の願文にも見える「怨を以て怨に報いず」との言葉が見える、『日本霊異記』でもテーマとなる仏菩薩の「形像」の信仰的意味が語られる、等々である。これらは研究協力者たちによって今後問題化されることが期待される。 なお、奈良市および仙台市周辺の古代仏教関連史跡・寺院の実地見学をそれぞれ行い、文献理解に資する知見を得た。
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