今年度計画されていた研究は、①『8世紀日本文筆集成』の編集、②主要テキストの注釈、③『8世紀日本漢語集成』の編集、④近世『続紀』研究文献調査の4点であった。 ①については、『続日本紀』からの漢語抽出を終了し、当面の目的は達することができた。今後の8世紀文筆を対象とした研究の基礎資料となるものと考える。 ②については、年度内に本研究に関する単著論文を4本(内、査読論文2本)執筆することができたが、いずれも、『懐風藻』『万葉集』の特定の本文に対する注釈的性格を有し、これまでに指摘されていない事柄を示すことができた。「『懐風藻』序文にみる唐太宗期文筆の受容」では、『懐風藻』序が唐太宗期の文筆を積極的に受容していること、「万葉歌人の漢詩―安倍広庭「春日侍宴」をめぐって―」では、安倍広庭詩が虞世南詩を受容していること、「山上憶良「沈痾自哀文」と仏教語彙」では、山上憶良の語彙形成には、仏教語彙の影響が強いこと、同様の傾向は8世紀日本の文筆一般にも及ぶ可能性があることを「山上憶良の語彙をめぐる諸問題―「沈痾自哀文」を中心に―」で指摘した。また、研究発表を行った「唐僧恵雲の生物学講義―『妙法蓮華経釈文』所引「恵雲云」の言説―」も、注釈作業の中で見出した新見を報告したもので、すでに論文として成稿済みである。 ③は、①を受けて作業を進めつつあるが、個々の漢語の認定には検討課題が意外に多く、当初の予定に比して進行はやや遅れている。漢語認定の難しさを認識できたことは、漢語とは何かという根本的な問題への考察を深めるきっかけにはなったと考える。 ④今年度は、奈良の諸機関所蔵の資料を中心に調査を行い、一定の成果があった。
|