研究課題/領域番号 |
24520240
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
和田 敦彦 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (90283225)
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キーワード | 読書論 / 出版史 / 海外日本語図書館 / 蔵書史 / 近代文学研究 / 方法論 |
研究概要 |
国内での近代読書史資料の研究として、長野県松本市高美書店所蔵の明治期書店営業資料の8年に及ぶ概要調査が完了、その概要目録が完成した。約4000点に及ぶ資料の概要が明確となったため、特に近代の読書、出版の歴史において重要な資料類を中心に撮影作業を進めた。これら資料をその解説と共に出版する公開、出版する交渉を開始した。 海外での日本語蔵書史、読書環境調査は、その方向をやや変更した。当初は、北米とを中心に調査にあたる予定であったが、これまでの研究でかなりの部分が明らかになったため、研究の焦点を、いまだ調査されていない国へと移した。具体的には、国内外の機関の協力をあおぎ、東南アジア各国における日本語蔵書史、日本語図書の読書環境の調査を行うこととした。この方向で、タイ、ベトナム、インドネシア、フィリピン、シンガポールの五ヶ国を調査、日本語図書を所蔵する22の機関を調査することが可能となった。 読書論や読書の歴史研究を、文学の研究、教育方法に生かしていくための教育プログラムを構想した。平成25年度に、カリフォルニア大学サンタバーバラ校で行われていた研究プログラムと協力、連携する形で、「近代日本の書物と読者」というタイトルで、このプログラムをもとに、大学院生を対象として試行的に授業を試みた。また、その内容をもとにテクストを作成し、出版社から刊行する準備を進めた。 以上の成果を公開していくため、東南アジア地域での日本語蔵書の歴史や日本語図書館の現状について国立国会図書館と国際交流基金とで調査の報告を兼ねた講演を行った。また、個々の日本語蔵書については、ベトナムの社会科学院が所蔵する日本語蔵書について、同機関との長期的な連携、協力体制を構築した。また、同蔵書を広く紹介するための論文を執筆、公開した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、近代における読書環境の歴史的な変化を明らかにし、かつその調査・研究を、近代文学の研究・教育方法の中に生かしていくことをねらいとしている。そのために、主に四つの方法をとっている。第一に、国内での近代の読書関連資料の収集、分析に基づき、読者環境の歴史についての研究を進めること。第二に、海外における日本語蔵書の形成や流通状況、その読書環境の歴史を調査、研究し、その知見をもとに日本の読者、読書環境の分析を行うこと。第三に、これらの読者や読書環境の調査、研究の実践をもとに、文学研究としての有効性や文学教育の中での意義について明らかにすることである。そして第四に、これらと並行して、こうした研究手法や研究者を育成、支援していくための環境を整えていくことである。 いずれの点においても、十分な実績を本年はあげることができた。ただ、第三の、海外における日本語蔵書の環境の調査、分析については、当初予定していた北米における調査は進んでいない。しかし、これは調査、研究の方向を、北米から東南アジアへと移していったためであり、東南アジアの国々において、日本語蔵書や読書環境を調査を展開することとなった。この調査は大きく進んでおり、その成果として新たな資料や情報を豊富に収集し、公開していくことも可能となった。海外の読書環境を調査し、そこから日本の読書環境の分析を行うという点で、豊かな成果を生み出すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
国内での近代読書史資料研究については、長野県松本市の高美書店の所蔵資料の全容から、同書店が出版史上きわめて貴重な資料が存在していることが判明した。このため、所蔵元である高美書店とも相談し、資料の公開、刊行に向けて作業を進める。また、これら資料を文学研究、教育へと活用していく方策について検討することとなる。 海外での日本語蔵書史、読書環境調査については、東南アジア地域での調査をより充実させていく。東南アジア地域の日本語蔵書史や日本語図書館の状況についての情報はきわめて少なく、本研究による資料と情報の収集が、様々な国内の研究機関にとっても有用なものであることが分かった。それぞれの国で、引き続き資料の収集や、関係者からの聞き取り調査を進めることとなる。また、貴重な日本語蔵書をもつベトナムの社会科学院については、より細かい蔵書調査を進めていく。 読書の環境や読書の歴史を調べ、学ぶことを基盤として、文学の研究、教育方法を構築していくことが、本研究の主眼である。そのための試行的な教育プログラムを具体化し、その内容をテキストとして刊行していく。すでに刊行準備が進めており、刊行後はその成果をもとに、教育、研究の実践へと活用していくこととする。また、このテキストの制作、刊行以外に、これまでに述べた出版史資料の刊行、さらには海外の日本語蔵書、読書環境の調査、研究成果について、論文化し、国際会議を含めて国内外でそのその研究成果を報告していく。
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次年度の研究費の使用計画 |
残金はごく少額。消耗品購入の際に生じた。 次年度消耗品費として使用。
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