研究課題/領域番号 |
24520240
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
和田 敦彦 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (90283225)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 読書 / 日本近代文学 / 出版流通 |
研究実績の概要 |
本研究は、読書の歴史を研究し、その成果を文学研究、及び国語教育において生かしていくための実践的な方策を確立していくことを目的としている。 そのための手段として、一つには読書の歴史を明らかにするための調査、研究を蓄積し、それと並行して、それらを文学研究、教育に生かすための方法を具体的に形にしていく作業を行っている。 まず前者、読書の歴史を蔵書形成や書物流通の歴史から具体的に調査していく作業に関しては、2014年度は主に長野県松本市における調査と、ベトナムにおける調査に重点をおいた。松本市の高美書店が所蔵する明治期の書籍出版・販売資料は、これまでその目録化や、部分的ではあるがその分析、研究を行い、その成果を研究書としても刊行してきた。この年度では、さらにこれら資料を大規模、かつ広範に公開するため、当該書店や出版社と協力し、復刻、刊行する準備を進めた。これら資料は次年度中に刊行する予定となっている。書物の流通という観点から、古書店の役割の調査手法をも調査、検討を進め、その資料の刊行も行った。 また、ベトナムについては、東南アジア地域への日本の書物流通を調査する観点から研究を進めた。特にベトナム社会科学院(Vietnam Institute of Social Sciences)の所蔵する日本語資料の調査を、当該機関との協力のもとで行った。この調査成果が認められ、次年度からは国文学研究資料館の協力を得て、長期的な調査体制を整えることが可能となった。 もう一つの方策、すなわち読書の歴史を教育に生かしていく方策に関しては、その研究成果を著書『読書の歴史を問う 書物と読者の近代』の形で刊行し、体系的な教育、研究の実践方法として提案することが可能となった。また、図書館学領域の研究者と連携し、司書向け教材を作成し、そこに読書の歴史研究を応用する試みを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究計画の目的にそって順調に調査、研究成果が達成されつつある。本研究は二つの方向から進められている。一つは読書の歴史を文学教育や文学研究に生かしていく体系的な方法の構築とその実践である。これについては、その研究の蓄積を具体的なテキストとして形にしていくことができた。また、この成果を図書館学の領域と連携して応用していく試みも展開し、その成果が刊行される予定である。 また、もう一つの目的としている出版、流通環境の歴史に関するケーススタディについても、具体的な成果が形となりつつある。海外での調査に関しては、ベトナム地域での調査が複数の研究機関の支援、連携を得て長期的な調査体制が整った。また、日本国内の調査では、これまでに調査、整理にあたってきた明治期の書籍出版、販売関連資料の大規模な復刻、出版の準備が最終段階に入っている。これとあわせて、近代の古書店の役割を明らかにするための調査、研究もこれまでに進めてきたが、その資料を出版社の協力のもと刊行し、古書店の実証的研究を試ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終年度に向けて、これまでの研究成果を公開していく準備が順調に進んでいるため、大きな方策の変更は予定していない。研究成果の公開と、その情報の積極的な発信に向けた具体的な方策を進めていく。明治期の書籍出版、販売関係資料については、出版社側で作成した大量の撮影データに、解説を付け、刊行に向けてその構成を整えていく。ベトナム地域については、国文学研究資料館、及びベトナム社会科学院と連携しながら、ベトナムでの現地調査を進め、かつベトナム側から提供された書誌データをもとにその情報を国内で補完していく作業を進める。 また、読書の歴史を教育、研究に生かしていく試みとして、刊行したテキストに基づいた教育、研究の実践を進めるとともに、今後の読書研究の展開や、その可能性をも検討することを試みたい。
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