近年、貴船神社はパワースポット・縁結びなどの功徳を謳って多くの参拝者を集めているが、学術的研究が進んでいるとは言い難い。研究代表者自身も長年、お伽草子『貴船の本地』の注釈的研究を続けてきたが、重要な祭神や祭祀などの資料が少ないことを痛感していた。しかし、平成に入り、上賀茂神社関連の古文書の目録が作成され、あるいはデジタルアーカイブスとして公開された資料もあって、研究しやすい環境が整ってきた。折りよく、研究代表者は科研費の助成金で調査した史料や購入した資料集・論文集などによって、江戸時代以前の貴船神社の歴史や文学作品の実態を一定程度明らかにすることができた。その一部は(1)2016年年内に刊行予定の単著『神話文学の展開』所収の論文、(2)2014年、『論究日本文学』第100号に掲載した『貴船社歌合』の論文、(3)2013年、『立命館文学』第630号で翻刻・紹介した『木船谷者所持記』、(4)次年度以降刊行予定の『貴船神社の文学と歴史』所収の資料・論文などで示した。 『神話文学の展開』では、①第Ⅰ部第二章「神社神話の遡源」で、貴船神社蔵『黄舩社秘書』所収の「女神が黄船に乗って川を遡上し、当地に到達して鎮座した」という神話が江戸期の神道書『先代旧事本紀大成経』を典拠とすることを明らかにした。②第Ⅰ部第三章「神社神話の降臨」で『黄舩社秘書』に二種類の降臨神話が記載されていることを紹介した。③第Ⅰ部第四章「神々の尻尾」では摂末社である山尾・川尾・黒尾の三社に共通する「尾」の名義について考察した。④第Ⅱ部第五章「鬼殺しの年中行事」では深泥池周辺に二つの穴があり、そこに大豆を入れる節分行事があったことを確認した。⑤第Ⅱ部第六章「中世神話と貴船神社」では女主人が本社の本地仏「八臂弁才天」であり、男主人公の「まらうど神」が奥宮本社の祭神であると推定した。これらはすべて新見である。
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