研究課題/領域番号 |
24520251
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 摂南大学 |
研究代表者 |
小川 豊生 摂南大学, 外国語学部, 教授 (50169190)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 文字観 / 梵字悉曇 / 身体 / 密教 / 神道 / 芸道 / 和歌 |
研究概要 |
本年度研究計画のうち、①文字幻想をめぐる研究、②悉曇学書における文字観の文化史研究、③宗教実践における文字と身体の関係についての研究を遂行した。まず、①は前近代日本における「文字」の起源説に関する全体的な究明を行った。13世紀から14世紀にかけてが中心となったが、近世にいたる考察も若干含まれている。ここでは悉曇文字にかかわらず、広く日本の前近代における文字観全般の歴史的変遷とその特質とを抑えることを目標にした。②については本年度は既刊行の悉曇関係文献を中心に、国語学的見地とは異なる文化史的な観点からの問題点を析出し、中世を中心とした文字観の総合的研究をめざした。また、③については、現在、他分野(日本史、思想史、哲学、宗教学等)においても盛んに論じられている文字と身体をめぐる議論の内実を把握することに努めた。いずれも次年度以降に進められる研究の基盤確保のための考察であるが、この段階での成果については、具体的には本年度末に提出した博士学位論文、『中世日本の神話・文字・身体』(全642ページ)のうち、とくに第IV部所収の第一章「文字・観想・身体」、第二章「生殖する文字――梵字悉曇と和合の精神史」、第三章「幻像の悉曇――梵・漢・和三国世界観と文字の神話学」、第V部所収の第一章「中世の書物と身体――天台口伝法門の言語論的アプローチ」においてそれぞれ吸収し、本研究の当初の計画(一部変更)を達成することができた。従来の古典研究、思想史研究にみることのできなかった、新たなかたちのテーマ――梵字悉曇を中心とした中世文字観をめぐる諸問題の解明というテーマを学界に広く提示することができたものと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度の研究計画に盛り込まれた内容の一端を、次年度中に刊行予定の単著書『中世日本の神話・文字・身体』に収めた得たことは大きな成果であったと考えている。 また本年度計画中、既に刊行されている文献資料の収集、とくに梵字悉曇にかかわる国語学領域の研究書の収集については、おおむね達成できたものの、未刊行・未翻刻の資料である写本マイクロ資料・複写資料の収集作業についてはやや遅れをきたしている。最近、中世の密教・神道書にかかわる新資料の発掘・紹介の動向には日進月歩の状況がみられ、本研究にかかわって重要な資料も当初計画以降多数報告されている。それらに十分な目配りをしたうえで、再度資料収集の計画を練り直す必要が生じたためである。それらを確認・調整のうえより充実した収集を期するため、写本にかかわる文献収集についてはその多くを次年度以降にまわすことにした。また海外の大学図書館等に収蔵された文献の収集等についても次年度以降の入手を期したい。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の成果を基盤として、次年度研究計画のうち、④直談抄テキストにみる言語思想の研究、⑤和歌・物語註釈テキストにみる文字思想、⑥古代・中世諸芸道の論書・註釈にみる文字観の変遷とその多様性をめぐる研究を予定通り実施する。 ④については、とくに天台口伝法門のテキストにみる文字観の探求や禅文献におけるそれを究明する。⑤については和歌ジャンルにかかわる諸註釈テキストの収集を中心に、和歌言語に関する諸問題を分析する。⑥については音曲・入木道・読経・作庭・有職等、中世の芸道に見いだせる文字観について探求を深めたい。とくに、調査過程で改めてその重要性を知りえた入木道(書道)における文字論・文字観の研究を遂行したい。またこの書道における諸問題は、最終年度に予定している「東アジアにおける文字観の諸相」においても引き続き行うことを考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
写本マイクロ複写の収集につとめる。また、本年度の予定のうち写本関係の資料収集について、文庫・図書館等への調査にかかる旅費執行に遅延をきたしている事情については「現在までの達成度」に記したとおりだが、これについては慎重な計画のもとに、次年度および最終年度の予算執行を総合的に調整・判断し、より流動的かつ有効なかたちで執行したいと考えている。また「直談抄」にみる文字観の研究、および諸芸道にかかわる文字論の研究については、国内文庫・大学図書館等への調査旅行を予定している。とくに調査の過程でその重要性を認識した入木道(書道)関係の資料についても収集分析をすすめたい。
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