本研究は、三箇年にわたり、各文庫に所蔵される中世宗教・文芸テキストの写本の発掘を通して、日本における梵字悉曇の受容とその文化史的意義について総合的に把捉することを目的としたものである。本年度はその最終年度にあたる。 本年度も引き続き、国文学研究資料館所蔵の関連マイクロ資料の調査・収集、金沢文庫所蔵テキストの調査・収集、高野山大学図書館所蔵テキストの調査・収集等を基軸に実施した。ただし本年度は前年度に調査不足であった神道テキスト、密教テキストを重点的に収集した。また、過年度の研究によって、日本中世における梵字の受容が、文芸作品や芸能テキスト、さらには雑書とよばれる諸ジャンル混交のテキスト群にまで及ぶ実態が明らかとなったことを承けて、特異な梵字文化の内実について領域を横断しつつ、思想史的な見地からも究明することをこころがけた。宗教テキストはいうまでもなく、歌学や音曲、さらには能楽、造園、医学の領域にまで梵字悉曇を基底とする文字観の浸透がみられること、文字の観想という行為が幅広い文化的創造力の源泉となっていること、また諸外国の文字思想と日本のそれとの相違点など、本研究で達成した成果はきわめて大きいものがあった。具体的には、仏教文学会における口頭発表、および学会誌への寄稿という形でその一端を発表ずみであり、またその総合的な成果については、単著『中世日本の神話・文字・身体』(森話社、2014.5、全730ページ)として公刊することができた。
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