研究実績の概要 |
研究期間の最終年度にあたるため、今までの集大成として、第44回西鶴研究会(於青山学院大学 2017.3.27)において、「西鶴の諸国話の手法と地方談林俳諧」と題して90分に及ぶ時間を与えられて研究発表を行った。質疑応答においては諸氏から様々な意見が出たが、西鶴の情報源としての地方談林俳諧文化圏の存在については、先学も含めて誰もが漠然とは想像していたが、手法として論証されたことは初めてであると評価された。ただ、相互の関係によって典拠が決定的といえる作品は少なく、なお、研究を続けるべきであるとの指摘もなされた。情報源としてその担い手の多くは地方物流拠点ともいえる海川流通機構を牛耳る新興商人であり、各々の地方に俳諧文化圏、特に談林俳諧文化圏ともいえる独特の俳壇を形成していたことは論証されつつあるが、彼らと大坂、京都、江戸の都市俳壇との関係、新興商人だけでなく、武士階級、大名家との関係など総論だけではなく、各論に還元して、さらなる個別の論証も必要であるとの指摘も受けた。しかし、今年度当時の京阪神を中心とした豪農、商人たちの間においての前句付の流行については「言水評点 前句付『俳諧愛宕土産』の翻刻注釈と研究」(『日本文藝研究』,第67巻2号・第68巻1号合併号,1-23)で論じており、武士階級との関係についても(「西鶴の海と舟の原風景~『西鶴大矢数』にみる地方談林文化圏の存在~」,篠原進・中嶋隆編『ことばの魔術師西鶴 矢数俳諧再考』,99-125,ひつじ書房)で言及しているが、周知が不十分であった。他の点についても、発表内容を早々に論文化等して細部を詰めた成果を提示すべきであるという今後の方針も得た。一方、ホームページとして成果報告するという試みは、国文学ではまだ珍しく、利便性、汎用性などの点から高い評価を得た。これらの提言を受けて、より充実した研究成果報告となるように努力したい。
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