本研究の目的は、禅林における幼童・少年僧をめぐる文筆活動について、現存する作品集を対象として、その存在意義を具体的に究明することにある。艶詞文芸と詩(偈頌)の総集の分野に大別して、これまでの研究を踏まえながら、終始作業と検討とを続行した。 最終年度については、随時未収集作品について諸機関に出張して調査、撮影等収集を進めたほか、特に大東急記念文庫蔵『一節集』についての精査結果を論考に纏め、艶詞文芸における最初の本格的な作品集と見なされている総称「一節集」の全貌を解明するとともに、心田清播の別集の完成版を整えることができた。さらに、上記の両分野における諸活動の原動力、方向性主導の役割を果たしたのは、やはり義堂周信と考えられるため、統率者として下向した関東での足跡を実地に踏査するために、主として鎌倉五山を中心に諸寺院を歴訪し、次いで神奈川県立金沢文庫、同歴史博物館、鎌倉国宝館等において資料収集した成果は、今後の研究に不可欠である。 研究期間全体を通じては、現存する上記両分野の作品集の現状を掌握し、未収集作品集を補完する点に努め、周辺関連作品集にも意を注ぎながら、九割方を達成した。作品集の成立時における存在意義を確認し、研究の現状(今日的評価)と比較する点に関しては、総称「一節集」において果たせたと考える。艶詞文芸の作品集の読解については、総集「一節集」のほか、建仁寺両足院蔵『歳寒集』所収「木母集」についても進め、その一部成果を紀要に発表した。詩(偈頌)の総集については、編纂過程や収集源の解明、作品読解を続行したが、特に前者において不可解な現象が認められ、その起因の過程について究明している段階である。この不可解な現象こそは、幼童・少年僧が積極的に関与したことを実証する鍵を握っていると推量している。以上、「申請書」に記した研究目的等に照らし特記すべきを記した。
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