研究課題/領域番号 |
24520256
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 大分県立芸術文化短期大学 |
研究代表者 |
野坂 昭雄 大分県立芸術文化短期大学, その他部局等, 准教授 (20331936)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | 戦争詩 / 視覚 / 映像 / 丸山薫 |
研究概要 |
平成24年度の研究成果の具体的内容としては,①「蓮田善明の詩と小説に関する論考の研究」,②戦争詩関係資料の収集,が挙げられる。 ①の蓮田善明については,熊本学園大学で開催された蓮田善明研究会で,24年度中に2回の研究発表を行い,いずれも戦争詩を考える上で極めて示唆的な蓮田の小説観,詩観を考察した。蓮田善明は,本研究が強い関心を抱いている批評家・保田與重郎と共に雑誌『文藝文化』などで活動活躍した小説家,国文学研究者である。1回目の発表「蓮田善明の小説論」で考察したのは,森鴎外『青年』について論じた「小説について」で,蓮田が「詩に対する自己弁護が小説である」という見解を示し,近代の小説というジャンルを,「詩」=「超時間的な」美と対立するものとして位置づけている点である。この自己弁護とは,日本浪曼派的な「イロニー」と言ってもよいものだが,こうした小説を通して「詩」は無媒介的な美の表象として成立するようになる。第2回目の発表では,具体的な作品として蓮田の『有心』を考察した。この小説では,戦線で負傷して帰国した男が温泉で療養するというストーリーだが,温泉で目撃する健康な身体(戦争で戦う身体)と,夫の訃報に接した娘の嗚咽とが入り乱れる。これらの考察から,戦争詩が現実に対して取るスタンスやアイロニーといった要素を考察する土台が出来た。 ②戦争詩関係の資料収集は,国立国会図書館のデジタル資料の複写作業である。戦争詩集の主なものは確認できたが,また25年度も引き続き資料の収集に努める。資料のうち,著作権に抵触しない作品については随時パソコンで入力してデータ化し,データベースにアップしていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の予定では,本年度中に資料収集と次年度研究発表の構想などを行う予定であった。予定通り国立国会図書館での2回の資料収集は実施し,時間の許す限り必要な資料(戦争詩)の複写などを行った。しかし,所属している短期大学の学科カリキュラムと名称の変更(文科省届出設置)の業務などにより忙殺されたことが理由で,収集した資料の整理や新たな論文,研究発表の準備はやや遅れているのが実状である。この学科カリキュラムと名称の変更は,本研究の申請後に短大の方針で決まり,届け出たものである。 また,視覚や映画・映像に関する資料の収集に手が回らず,執行予定の研究費も一部が未使用のまま残っている状況である。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目にあたる平成25年度は,1年目に収集した資料を分析し,視覚性と関わる作品を抽出し,体系的な研究に形作る作業に充てたい。具体的な観点は,次の通りである。①『愛国詩集 大詔奉戴』などの詩集を取り上げ,そこに見出される視覚性の表象を考察する。②ジョナサン・クレーリーなどによる近代の視覚性に関する研究を援用しながら,日本の近代詩史における視覚性の問題を考察する。その際,戦後詩が戦争詩の感覚的な要素に注目してこなかった点を批判的に取り上げる。また日本独自の視覚性を考えるために,民俗学的な磁場(見世物やパノラマなど)の中に戦争詩の視覚性を位置づける。③丸山薫の戦争詩についての研究を引き続き行い,論文化を目指す。④蓮田善明の詩/小説論の考察の成果を論文にする。⑤戦争詩を少しずつデータベース化する作業を並行して行う。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成24年度に購入予定だったもののうち,『現代日本詩集』と『現代詩誌総覧』,DVD「NHK特集 激動の記録」を購入したが,備品はほとんど購入しなかった。デジタルカメラは資料の撮影に使用する予定だったが,図書館で資料撮影は禁止されているため購入を断念した。カラーレーザープリンタは現在使用中のものがあるため,購入を控えた。外付けハードディスクは,複写資料をPDF化して保存するために平成25年度に購入する予定である。 以上のように,当初の研究費使用計画が変更となった。平成25年度は外付けハードディスクに加えて,申請者が使用しているWindowsXPのサポート終了への対策として新しいノートパソコンを購入し,データベース作成のソフト,そして戦争詩関係の資料(図書・映像)をあわせて入手したい。 旅費と文献複写費は,当初の計画通り執行する予定である。
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