本研究は、「標注」について分析することを目的とした。標注が近世漢文学のなかでいかなる位置にあるかを解明した。標注は、漢文に対して、主に漢文で注釈をしている注釈書である。それまでの中世に於ける抄物を受けながら、また相違するところもある。宋代または明代の文学理論を踏まえている。一方で、標注は近世漢詩とも関連がある。この研究はそれらの関係性を明らかにした。特に宇都宮遯庵に焦点をあてた。彼が注釈の対象とした詩文集は、『錦繍段』『古文真宝前集』『三体詩』『杜律集解』『千家詩』『国朝七子詩集』と幅広い。唯一の抄物である万治四年(一六六一)の『頭書錦繍段抄』を始めとして、寛文四年(一六六四)の『錦繍段首書』、貞享元年(一六八四)の『錦繍段首書』、元禄十五年(一七〇二)の『錦繍段詳註』の標注を制作していることは、彼の注釈活動において、『錦繍段』注釈がその始終にあったばかりか、その要所を占めていることになる。この遯庵における漢詩文注釈の姿態を明らかにした。
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