研究課題/領域番号 |
24520259
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研究機関 | 長野工業高等専門学校 |
研究代表者 |
小池 博明 長野工業高等専門学校, 一般科, 教授 (30321433)
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キーワード | 古今和歌集 / 後撰和歌週 / 拾遺和歌集 / 後拾遺和歌集 / 助詞 / 助動詞 / 構文 / 表現 |
研究概要 |
本研究の意義は、助詞・助動詞によって組み立てられる構文という観点の導入によって(複数文から構成される歌では文相互の関係、すなわち文章構成の観点も加わる)、和歌の表現史を、これまでのように自立語(特に名詞)・修辞など、1首中の個々の要素の変遷として捉えるのではなく、1首を表現構成として総体的にとらえたうえで考察できる点にある。本年度は、昨年度完成したデータベースをもとに、本研究に有効な助詞・助動詞・構文・文章構成を抽出する計画であった。そこで着目されたのが、まずは先行研究や予備研究から予測していた、助動詞「けり」「らむ」である。また、研究当初は注目していなかったが、和歌の表現構成を考察する上で、基本的な要素である句切れが、大きな問題として浮上してきた。 本年度は、前者の「らむ」と、後者の初句切れとについて考察し、以下の点を明らかにした。 1.助動詞「らむ」を文末に有する歌は、万葉集に比較して、古今集では原因・理由の推量を表す用法が多いことは、従来から指摘されていた。しかし、原因・理由の表し方が、万葉集ではほぼミ語法に限定されるのに対して、古今集では接続助詞「ば」による条件節、係助詞「は」の題述構文の節述部分、格助詞「に」などによる連用節などで表現され、多様化する。最初の2つは、いわゆる理知的な古今集の表現の成立に大きく関与している。 2.初句切れは新古今集の特徴とされてきたが、その表現的特徴はすでに古今集に見られる。すなわち、初句切れの初句の典型は、体言を含まない述語文節1つで構成される、要求文か感動文かである。そして、第2句以下が、初句の用言の対象や内容となる。述語文節のみで成り立ち、体言を含まない初句は、第2句以下で示される、述語の対象や内容に、焦点を絞ることになる。また、初句の要求文や感動文で示される強い情意は、1首全体の印象を決定づけることにもなる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究計画では、本年度は、古今集的表現を考察する上で有効な助詞・助動詞・構文・文章構成(文相互の関係)を抽出することになっていた。 助動詞については、当初から、先行研究や予備研究によって、「けり」「らむ」に統括される文に着目していた。昨年度完成したデータベースを分析するとともに、必要に応じて万葉集も比較検討の対象とした結果、やはり当初の予測が妥当であった。また、助詞に関しては、先行研究などによって、係助詞「は」、接続助詞「ば」「て」、格助詞「に」に着目していた。古今集を特徴付ける、原因理由を推量する「らむ」は、「……は……らむ」という題述構文(例 251紅葉せぬときはの山は 吹く風の音にや秋をききわたるらむ)、「……ば……らむ」という接続構文(例 7心ざしふかくそめてしをりければ 消えあへぬ雪の花と見ゆらむ)が代表的構文であり、これに「……て……らむ」「……に(や)……らむ」等が加わる。この点からも、研究計画における予測が妥当であったことが示された。 こうした研究計画に沿った結果とともに、当初はそれほど重きを置いていなかった句切れが、考察の対象として浮上してきたのは、成果であった。偶数句切れが原則である万葉集に対して、古今集的表現で注目されるのは、奇数句切れである。本年度の具体的考察には、初句切れを取り上げた。しかし、さらに重要なのは三句切れ、特に万葉集にはないとされてきた鎖型構文をつくる三句切れ(32 折りつれば袖こそ匂へ 梅の花 ありとやここに鶯の鳴く)である。 このように、当初の予測どおりに、有効な助詞・助動詞・構文が抽出された。それに加えて、新たに句切れという、最近はあまり取り上げられなくなった問題を掘り起こした。しかも、研究計画では、有効な要素の抽出のみを意図していたが、「らむ」と初句切れについては、具体的な考察にまで及んだ そこで、上記の自己点検による評価とした。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画では、平成26年度に「けり」「らむ」などを文末語とする、1文構成の歌について考察し、平成27年度に同様の助動詞を文末語とする文を含む、2文構成の歌について考察することになっていた。 しかし、本年度「らむ」を文末語とする歌を考察した結果、当初予測していた以上に、1文構成の歌と2文構成の歌とが密接に関係していることがわかった。そこで、両者を別個に考察するよりも関連づけて考察する方が、表現の展開を観察するには適当と考える。 そこで、平成26年度は「らむ」を文末に有す歌について、特に題述構文・接続構文などを中心に考察する。今年度の考察をもとに、「らむ」の古今集的表現の特徴である、原因理由の推量に焦点化し、万葉集や後拾遺集、ひいては新古今集を視野に入れて、古今集的表現の特徴とその展開について考察を深めたい。1文構成の歌から2文構成の歌への展開という観点が重要になるだろう。 平成27年度は、古今集的表現を特徴付ける、もう1つの助動詞「けり」を中心に考察するとともに、本研究の最終年度であるから、これまでのまとめを行う。文法的には「けり」は、「けり」と同様過去または回想の助動詞とされる「き」との比較で扱われることが多い。しかし、本研究は古今集的表現の考察であるから、「けり」を文末語とする歌の題述構文・接続構文などを中心に考察する。本研究では、これまで「らむ」ほど考察が進んでいないので、具体的にどのような助詞に着目すればよいか、今後明らかにしていかなくてはならない。ただ、古今集に多い構文が、題述構文・接続構文という点からすれば、やはり係助詞「は」「も」、接続助詞「ば」「ど」などに、まずは注意することになろう。また、歌末「けり」の歌では、三句切れの鎖型構文が出現しやすい。三句切れの鎖型構文ついて、ここで考察することができればと考える。
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次年度の研究費の使用計画 |
句切れ関連の図書が予想より少なく、図書費が予定を下回ったため。 和歌の表現関連図書の購入に充てたい。
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