最終年度となる今年度は、第1に、三代集における、文末に助動詞「らむ」を含む歌の表現構成について考察した。その結果、「疑問詞……らむ」について、それぞれの歌集に特徴的な場が、その用法に差異をもたらすことを明らかにした。 第2に、歌末に「けり」を含み、古今集的表現に特徴的な「……ものは、……なりけり」「……ものなりけり」について、古今集から後拾遺集を調査した。その結果、「なりけり」構文における「……ものは……なりけり」の占める割合が、拾遺集でピークに達することがわかった。秋本守英氏によれば、古今集に多い「……名詞は、……名詞なりけり」は個別的体験による個別的表現であり、「……ものは、……なりけり」は、理法を個別的体験に基づいて、発見、解釈する形だという。だとすれば、「なりけり」構文の表現に、通時的な展開を認めることができる。 本研究全体の成果として、以上に加えて、以下の3点をあげることができる。第1に、私家版ながら古今集から後拾遺集までの文末語のデータベースを作成し、和歌の表現研究を効率的に行えるようにした。第2に、初句切れの表現構成を明らかにした。第3に、新古今集までを視野に入れて、古今集的表現を特徴付ける文末「らむ」と句切れ・体言止めの関係を明らかにした。 本研究の当初の目的は、三代集を研究対象とした表現研究であったが、結果的には新古今集をも考慮したものとなった。これは、和歌の表現史が、象徴詩としての要素をもつ新古今集で1つのサイクルを閉じることを考えれば、必然である。そこで、本研究は、次の課題として明確に新古今集を対象に含めた表現研究に進むことになる。これは、すでに本助成事業に採択され、本研究の最終年度に同時並行して進められている。
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