研究課題/領域番号 |
24520263
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研究機関 | 成城大学 |
研究代表者 |
吉田 直希 成城大学, 文芸学部, 教授 (90261396)
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キーワード | 18世紀 / イギリス / 公共圏 / 文化 / 科学 / 経済 / ジェンダー / 快楽 |
研究概要 |
18世紀初頭のイギリスでは、宮廷や教会の権威が比較的弱く、公平無私な「公衆」が次第に文化形成の中心的役割を担うようになったと考えられている。もちろん、この合理的な公衆は悪徳に満ちた「私」と表裏一体であり、公私の緊張関係に焦点を当ててみるなら ば、上品なブルジョワ知識人がこの時代の文化的空洞を埋め合わせるべく俄に登場し、近代イギリス公共圏が誕生したと単純に考えることはできない。本研究は、クリフォード・シスキンらによる18世紀啓蒙主義に関する最近の代表的研究(This is Enlightenment, 2010)を批判的に検討することにより、公共圏誕生の複雑な歴史性を解明し、同時にその担い手である近代的主体の特性を文学研究の視点から解明するものである。18世紀になってはじめて、文化は商品としての価値を持つようになったが、商業化した文化がハーバーマス流の理想的ブルジョワ公共圏にどのような影響を与えてきたかは未だ十分に検討されてはいない。そこで本年度の研究では、文化の商品化が経済と文学の共存関係から分離独立へと向かう歴史的推移を検討することにより、文化の商品化が公共圏に与えた社会的影響について理論的考察を行なった。さらに、「想像の快楽」を主張するアディソン、シャフツベリー、さらにはアレクサンダ・ジェラルドやバークに共通する中立的、抽象的な快楽一般を追求する美学に関する文学的言説を対象とし、商品化された文化とは異なる種類の、いわゆる「上品な」文化の創造について考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ボイルやニュートンが主張する「自然の法則」を分析し、18世紀の科学/文学が「精神」という目に見えない存在をどのように考察するに至ったのかを歴史的に検討する予定であったが、デイヴィッド・ドイッチュの理論的研究の整理に多くの時間を費やし、具体的な作品分析を通して近代科学思想と快楽の誕生について考察することが十分にはできなかったため、「やや遅れている」との自己評価を行なった。
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今後の研究の推進方策 |
ハーバーマスの公共圏概念では、女性がこの文化圏にどのように参加してきたのかが明確になっていない。文化の商品化について考える際にも、消費者としての女性の役割、そして消費の対象としての女性の役割を見逃すことはできないだろう。最終年度の研究では、女性の欲望、想像力、快楽、美徳をめぐる様々な言説を対象に、公共圏における近代的主体の歴史性について、ジェンダーの観点から検討する。「展示され、消費されることを欲望する女性」を作り出す、と同時に制御することを目指す18世紀公共圏文化の複雑な力関係を解明していきたい。 以上の研究により、「最も上品な時代」であると同時に「最も悪徳に満ちた時代」に誕生したイギリス公共圏文化の歴史を詳細に辿り直すことが可能となるだろう。
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次年度の研究費の使用計画 |
購入予定の洋書の入荷が遅れたため。 次年度の予算で執行することとした。
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