18世紀のイギリスは「最も上品な時代」であると同時に「最も悪徳に満ちた時代」である(『スペクテイター』第6号)と考えられてきた。シャフツベリーが理想とした公衆、すなわち合理性と礼節を重んじ、審美的感性を有するブルジョワ知識人たちが作り出した公共圏は、マンデヴィル流の性的情念と金銭欲に支配された欲望の世界との緊張関係の下に誕生したわけだ。本研究は、逆説的でもあり両義的でもある18世紀の公共圏文化を研究対象とし、その形成の歴史を描き出した。その際、同時代の経済・科学・ジェンダーといった新たなシステム構築との関係性を検証し、近代的主体の複雑性に歴史的意味を見出した。
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