本研究の成果は以下の3点に要約できる。1.楽曲がもつ文字とは異なる楽譜という異質で高度な伝達形式に依存する性格、書記による体験の共有の困難さを利用して、演劇は、舞台は版本にたいする優位性を保とうとした。2. 挿入歌は韻律、メロディ、演奏形態などの制約を通じて、主として喜劇作品において、身体性に依存しようとする道化役者の暴走を制御した可能性がある。3. 挿入歌は劇の中にありながら、プロットの外、観客の「いま」への参照性も付与されている。このことにより、台詞の言外の意味作用(パロディ、アイロニー、諷刺)の効果が醸し出される可能性も少なくない。
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