シェイクスピア劇をはじめとする初期近代イギリス劇が上演されたロンドンの劇場では、現代のような大掛かりな舞台装置は使われなかった。しかし、ト書きやせりふに内在する情報を細かく分析すると、舞台構造や小道具等を巧みに利用した初期近代イギリス劇特有の空間的メタファーとも呼べるような視覚的表現を駆使していたことがわかる。テクストの分析を通して、こうした手法を解明することを目指し、とりわけ、左右のドアの使用方法が、時として、観客の観劇経験を左右するような極めて深いインパクトを与える手段となり得ることを明らかにした。
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