平成24年度に開始した「〈知識の枠組み〉と南北戦争前アメリカ散文――〈ライフ〉をめぐる知識史」は、いわゆる文学テクストをとりあげながら同時代の〈知識の枠組み〉を再現しようという試みであった。南北戦争前とは、別の言い方をすればダーウィン以前であり、したがって〈ヒストリー〉の考え方も今とは違うし、ただいま「科学」と呼ばれている分野は未成立であるか萌芽期であった。
研究期間における成果は三段階に分けてまとめられる。第一に死生観を中心にとりあげたもので、墓石と墓地形態の変化に現れた死生観(ホーソン)、化学麻酔の発明と死生観(ポウ)、緑メガネと啓蒙思想(ポウ)を検討した。第二には、産業革命による環境変化としてアレクサンダー・フォン・フンボルトと同時代のアメリカ(ことにソロー)をとりあげた。さらには〈ライフ〉の法医学的解釈の問題へと発展し、セクシュアリティ(ポウ)、酒毒と狂気(ポウ)、毒薬学(ホーソン)を考察した。このうち最後の二つは、最終年度に発表した学術論文に成果として表れている。最終年度に至るまで筑波大学アメリカ文学会と共同で研究してきた〈ライフ〉と〈ロー(Law)〉をめぐる成果は、『アメリカ文学評論』24号〈特集ライフ〉および研究成果報告書として論文集にまとめた。
今後の研究の展望としては、第二の環境変化の問題と第三の法医学関係を結ぶものとして、(1)Landscape Gardening(これは第一段階の墓地形態ともつながっている)、(2)疫病の解釈と都市環境の問題をとりあげる予定である。
|