研究課題/領域番号 |
24520271
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
竹谷 悦子 筑波大学, 人文社会系, 教授 (60245933)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | ブラック・パシフィック / アフリカ系アメリカ文学 / 環太平洋ネットワーク |
研究概要 |
本研究はアフリカ系アメリカ文学における「ブラック・パシフィック・ナラティブ」の系譜を明らかにするものである。1920年代に生成、発展し、そして1930年に日米の確執をとおして崩壊していく太平洋の地域システム―その歴史と対位法的関係をもちながら、アフリカ系アメリカ文学により作り上げられていった言説が、「ブラック・パシィフィック・ナラティブ」であり、「黒い太平洋」という想像の共同体である。本研究では、ハーレム・ルネサンスの作家であり、全米黒人向上協会(NAACP)事務局長を務めたウォルター・ホワイトの活動に焦点をあて、太平洋戦争および冷戦期に彼が生成した太平洋をめぐる物語を考察した。 ホワイトは太平洋戦争中に、戦時情報局(OWI)に依頼され、ラジオ『自由の声』を通して日本人に向けて、アメリカ黒人の声を届けようとした。ホワイトの原稿"To the People of Japan, Greetings!"の分析を行い、戦後の太平洋地域をめぐるヴィジョンを検証した。 ホワイトは、さらに戦後の1949年に、ラジオAmerica's Town Meeting of the Airが主催する世界一周旅行に参加している。アジア(パキスタン、インド、フィリピン、そして日本)を訪問しているが、冷戦期に分断されていくアジア太平洋地域をめぐり、ホワイトがどのような想像の共同体を構築していったかを調査した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
24年度は、まず、太平洋戦争中に、日本からアメリカの黒人に向けて発せられたラジオ短波放送による心理戦/プロパガンダ戦を、アメリカによって傍受された記録(米国連邦通信委員会Federal Communications Commissionおよび戦時情報局OWI)から分析を行った。 また、ホワイトの"To the People of Japan, Greetings!"の原稿から、彼のPacific Charter(太平洋憲章)についての分析を行い、日本とアメリカ黒人の間の太平洋をめぐるレトリックの親和性とその内実の乖離について考察した。 さらに、夏期休暇を利用してニューヨークの市立図書館所蔵のAmerica's Town Meeting of the Airのコレクション、さらにワシントンDCの米国議会図書館が所蔵するNAACPの資料を調査した。 本年度目指していた、黒人/日本をめぐる太洋戦争下の心理戦・プロパガンダ戦争の全体像についてまとめるという作業を終え、おおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
戦時中の1944年から1945年にかけて、ホワイトが、『ニューヨーク・ポスト』紙の戦争特派員/従軍記者として赴いたヨーロッパ、北アフリカ戦線、ならびに太平洋戦線への旅行について調査し、ホワイトの活動から、アメリカ黒人にとっての第二次世界大戦の意味を考察する。またラジオAmerica's Town Meeting of the Airが主催する世界一周旅行でのホワイトの活動(スピーチ、書き物)から、リベラルなアフリカ系アメリカ黒人知識人が見たアジアの冷戦を分析する。
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次年度の研究費の使用計画 |
24年度は、米国公文書館の資料に関してリサーチ・アシスタントの協力により資料収集の予定であったが、研究の遂行上、その必要がなくなったため、謝金分5,693円の残額がでた。次年度は、夏期休暇を利用してアメリカ議会図書館が所蔵するNAACP関連資料、ならびにハーバード大学のアーサー・アンド・エリザベス・シュレジンガー図書館が所蔵するEdith Sampson Papersを調査する予定である。Edith Sampson は、ホワイトとともに、1949年にラジオAmerica's Town Meeting of the Airが主催する世界一周旅行に参加した黒人女性であり、彼女の活動活動(スピーチ、書き物)について資料を収集する。
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