研究課題/領域番号 |
24520275
|
研究機関 | お茶の水女子大学 |
研究代表者 |
英 美由紀 お茶の水女子大学, 外国語教育センター, 講師 (40623830)
|
キーワード | 身体加工 / 日本 / 小説 / マンガ / 表象 |
研究概要 |
昨年度、「ポストヒューマン」に関する理論動向を整理し、2000年代のイギリス小説Sara's Faceなどを論じたのに続き、今年度は2010年代に発表された日本のテクスト、例えば唯川恵の小説『テティスの逆鱗』や坂井恵理のコミック『ビューティフル・ピープル パーフェクト・ワールド』を取り上げた。 近未来を舞台として設定するこれらのテクストに共通するのは、そこで登場人物たちに施される加工がすでに美容外科の範疇を超え、トランスジェンダーや異種間移植を含む、反規範的なものとなっている点である。このようにして形作られた身体は、男/女や人間/動物といった既存の単一カテゴリーに帰属することのない、混交的な身体、主体を表すものとなっている。 こうした身体加工が潜在的にカテゴリーを攪乱する力をはらむことには、解放の側面を指摘することもできよう。しかし身体がいっそう厳しい管理の対象とされつつある現在の社会、経済的状況の延長上にこれらのテクストを位置づけるとき、その解釈は両義的なものとならざるを得ない。 またとりわけ坂井のテクストにおいて、身体加工のこうした側面が自他の境界の不安定化にさえ及ぶとき、人が新たに直面することになるであろう困難が示唆されていることは、着目に値する。そこには自在な変身を可能にする医療技術の発展を一方では享受しながらも、果たして人は希薄化する「自己」をどのように受け止め、折り合っていけるのかという問いが提起されていると言える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の成果については、博士論文の一部としてお茶の水女子大学に提出した。 また従来の統一的、自律的あり方とは異なる身体、主体を考察する本研究を進めるうえで、本年度書評を手がけたJohn Stephens編著、Subjectivity in Asian Children’s Literature and Film: Global Theories and Implications (Routledge, 2013)に触れたは、直接間接に有用であった(International Research in Children's Literature 6:2)。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度に続き、身体加工表象の分析を行う。 研究の成果については口頭発表や論文のかたちで公にする予定である。また博士論文の学術書としての出版も模索したい。
|
次年度の研究費の使用計画 |
本年度福原記念英米文学研究助成基金(福原賞)を得たことにより、科研費からの支出が予定よりも少なく抑えられた。 図書購入、及び英文構成委託料として使用する予定。
|