身体の外見の外科的な操作は、すでに社会における美の規範の再生産の域を超え、時に逸脱的ですらある様々な試みがなされるようになっている。各種プロテーゼの挿入・装着から、稀には四肢切断や動物に似せた外見の実現にも及ぶこうした身体加工(body modification)は、有機体-機械、ヒト-動物、自-他といった自然化されたカテゴリーやその境界を侵犯する性質を持つ。ここに対立項を他者化し、同一性の原理に依拠する主体構築のモデルは、不安定化されずにはいない。こうした問題系は、ポストヒューマンの議論のそれとも共鳴するものであり、本研究はそれを理論と表象において分析・考察することを目的とした。 本研究期間中、20世紀後半から、とりわけ21世紀の文学・視覚テクストにおける身体加工表象を検証すると、そこには新たな身体・主体像が提示されていると同時に、英語圏と日本ではこの問題の捉え方において相違が見出されるようにも思われた。そこで本研究の最終年度である2015年度には、それを各々の文化圏における主体概念のあり方と関連づける方向で研究を進めたが、論考としての提出は今後の課題として残すことになった。本研究の成果をいっそう明らかにすべく、研究を継続的に行う予定である。
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