本研究の目的は、アメリカ合衆国舞台芸術の理論と実践における、ポリティクスの諸問題についての研究の一環として、国家的な文化戦略および自治体・非営利団体等公共の芸術文化助成のあり方を、演劇実践活動の(美学的・政治的)な戦略との関係性において歴史的に再検討し、合衆国の芸術文化政策・外交文化戦略との連動を明らかにすることで、この関係性をとらえなおし、舞台芸術論および現代アメリカ演劇史の文脈の中で、再度位置づけを試み、今世紀の展開を標榜するための新たな学術的指標を提示することにある。 研究の最終年度にあたり、年度毎のテーマ(「国家の芸術助成と文化政策:連邦演劇プロジェクトと全米芸術基金(NEA)」「外交政策としての芸術助成と教育制度における演劇」「文化政策と芸術価値基準(Artistic Choice)の関係性」)について総合的に検討する作業を行った。ニューヨークの上演空間と都市政策および都市の文化政策について、森記念財団都市整備研究所クリエイティブ産業委員会において講演をする機会を得たことから都市における「クリエイティブ産業」と都市計画との関係についても検討を開始し、ニューヨーク市をはじめとした合衆国の都市政策と文化政策の在り方の変遷を確認する作業を行った。この過程で得た知見として、近年ブロードウェイ劇場等商業演劇の観客の内訳が大きく変化し、外国人観光客の割合が増した事実から、外国人観光客を対象として意識した作品制作が顕著となっていることなどが挙げられる。本研究のテーマの一つである芸術的な価値基準に大きく関連する事項として、あらためて検討することとした。
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