研究課題/領域番号 |
24520279
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
尾崎 俊介 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (30242887)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | アメリカ文学 / ブッククラブ |
研究概要 |
本研究は、アメリカの文学産業において特異な発展を遂げた「ブッククラブ」の誕生経緯とその発展の過程、及び、「出版社」でも「書店」でもないこの第三の文学流通メディアがアメリカ人の読書習慣に与えたと言われる多大なる影響について調べると共に、ブッククラブの存在が現代の文学市場に与えた様々な影響について、その否定的な面も含めて考察することを目的とする。 平成24年度に関しては、特に20世紀前半にアメリカで誕生した「ブック・オブ・ザ・マンス・クラブ」(The Book-of-the-Month Club)について調査と考察を行なう予定であったが、本務校での公務の都合上、アメリカでの調査活動ができなくなったため、予定を若干変更し、アメリカにおけるテレビ版ブッククラブとして20世紀末から21世紀初頭にかけて多大な影響力を持った「オプラズ・ブッククラブ」(Oprah's Book Club)について各種文献に当たりながら調査を行った。 さらにイギリスはロンドンに短期間調査に赴き、ロンドン大学図書館及び大英図書館においてオプラズ・ブッククラブの影響下に創設された「リチャード&ジュディ・ブッククラブ」(Richard & Judy Book Club)についての文献調査を行うことで、アメリカだけでなくイギリスまで広がったブッククラブの興隆ぶりを確認すると同時に、ロンドン市内にある「Brompton Library」で定期開催されている「対面型ブッククラブ」に参加し、ブッククラブというものが実際にいかなる形で運営されているのかを身をもって体験した。 またこれらの研究実績については、平成25年4月21日に開催された日本アメリカ文学会中部支部大会における研究発表(「本を語る:英米ブッククラブ事情」)において、公開する機会を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度に関しては、アメリカにおける「ブッククラブ」の代表例として、20世紀前半にアメリカで誕生した「ブック・オブ・ザ・マンス・クラブ」創立の背景や、創立以降、この団体がアメリカの読書界に与えた影響などを調べる予定でいた。しかし、勤務先大学での公務の関係で、当初予定していた3~4週間のアメリカ滞在が不可能となったことから、研究計画の順序を入れ替え、先にイギリスにおけるブッククラブの現状調査を行うこととした。 具体的には、ロンドン大学図書館や大英図書館などの研究機関に滞在し、各種文献調査を行った。その結果、大別して2点の収穫があった。 一つ目は2004年に発足し、イギリスの読書界に強い影響を与えることとなったテレビ系ブッククラブ「リチャード&ジュディ・ブッククラブ」について詳細に調べることができたことである。このブッククラブは、アメリカで1996年に始まったテレビ系ブッククラブ「オプラズ・ブッククラブ」の影響を受け、いわばその模倣として発足したものであるが、20世紀末から21世紀初頭にかけ、アメリカとイギリスで非常に似通った形のテレビ系ブッククラブが存在し、共に一般大衆の読書習慣の上に大きな影響力を持つに至った事情を知りえたことは、本研究にとって大きな意義があった。 二つ目の収穫は、滞在先のロンドンにおいて、対面型のブッククラブに飛び入り参加し、ブッククラブなるものが実際にどのような形で運営されているのか、その実態を体験的に知ることができたことである。このことによって、文献で知ったブッククラブのあり方を、実体験によって確認することができた。これは、当初の計画で予想していた以上の収穫であった。 以上のように、当初の研究計画の変更を余儀なくされたとはいえ、それに見合う十分な収穫を得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
本来であれば、昨年度にアメリカ合衆国に赴き、「ブック・オブ・ザ・マンス・クラブ」や「オプラズ・ブッククラブ」等、アメリカで独自に発達したブッククラブの歴史と現状を調査する予定であったが、本務校の公務の都合で計画変更を余儀なくされ、先にイギリスにおけるブッククラブの現状について調査することとなった。 そこで今後、平成25年度においては、先送りしていた「アメリカにおけるブッククラブ」の調査に立ち戻り、まずは当面の研究テーマである「ブック・オブ・ザ・マンス・クラブ」と「オプラズ・ブッククラブ」というアメリカを代表するブッククラブの創立経緯とその発展についての基礎的調査を行う予定である。具体的には、この種の研究分野についての資料の豊富なカリフォルニア大学ロスアンゼルス校での資料発掘が中心となる。またアメリカにおける出版ビジネス研究に欠かせない資料として同大学が保有する『Publishers’ Weekly』などの資料も活用したい。 また、もし可能であるならば、平成24年度にイギリスで行った「対面型ブッククラブ」の実態調査と同様の実地調査をアメリカでも行いたい。すなわち、アメリカ各地で行われている対面型ブッククラブにオブザーバーとして参加し、アメリカにおいて対面型ブッククラブがどのように運営されているのか、その実態を調査し、もってイギリスにおける対面型ブッククラブの運営形態との比較なども行うことができればと考えている。 また調査結果については、昨年度の研究実績の報告も含めて、学会発表や論文執筆の形で順次公開していく予定である。
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次年度の研究費の使用計画 |
通常の文学研究のように「本の中身」を研究する場合とは異なり、本の流通、あるいはそれに関わるビジネス、さらにそれに関わったり、その恩恵を受けた人々などが関わってくる本研究のような研究テーマでは、一次資料を用いたデータの提示が論文そのものの説得力を高めるというところがある。また、実際に「ブック・オブ・ザ・マンス・クラブ」や「オプラズ・ブッククラブ」が流通させていた専用本の古書としての入手など、日本にいては難しく、かつ高価になってしまうものが、アメリカでは比較的易しく、安いということもある。 また先に述べたように、『Publishers’ Weekly』のような主要二次資料に関しても、これを揃いで保有している日本の図書館がなく、二次資料の発掘という意味でも、国内にいては効率が悪いというのが事実である。 そこで、平成25年度は、経費の70%程度を米国での滞在研究費に、また30%程度を一次・二次資料の購入費(及びコピー費)に充てる予定である。なお、滞在先にカリフォルニア大学ロスアンゼルス校を選んだのは、過去の在外研究、および科学研究費補助費での研究の際、この大学で研究を行っており、図書館や書店の充実を熟知していることの利便性を重視したことによる。 なお、次年度使用額が生じた理由は、所属研究機関における公務の都合で、本来予定していた3~4週間の在外研究期間が持てず、2週間で帰国したことによって差額が生じたためで、余った補助金を次年度に繰り越した方が有効に活用できると判断したためである。
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