研究課題/領域番号 |
24520279
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研究機関 | 愛知教育大学 |
研究代表者 |
尾崎 俊介 愛知教育大学, 教育学部, 教授 (30242887)
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キーワード | アメリカ文学 / ブッククラブ |
研究概要 |
本研究は、アメリカの文学産業において特異な発展を遂げた「ブッククラブ」の誕生経緯とその発展の過程、及び、「出版社」でも「書店」でもないこの第三の文学流通メディアがアメリカ人の読書習慣に与えた多大なる影響について調べると共に、ブッククラブの存在が近年のアメリカ(及びイギリス)の文学市場に与えた様々な影響について、肯定的な面ばかりでなく、否定的な面も含めて考察することを目的とする。 平成25年度に関しては、カリフォルニア大学ロスアンゼルス校を拠点に、20世紀末から21世紀初頭にかけて絶大な人気を誇った「オプラズ・ブッククラブ」(Oprah's Book Club)について調査・研究を行った。具体的に言えば、このテレビ版「ブッククラブ」が、19世紀半ば以降、アメリカにおいて連綿と続いてきた主婦の娯楽としての「ブッククラブ」の人気を活性化させたことで、アメリカ人の読書習慣全般に大きな影響を与えたばかりか、同国の出版産業にも少なからぬ影響を与え、結果として「女性作家によって書かれ、女性登場人物を主人公に据えた、女性読者に支持され易い文学作品」ばかりがベストセラーになるという、ここ十数年に亘ってアメリカに見られる顕著な文学現象について、明らかにすることができた。 なお、この研究実績については、「本を「語る」女たち:アメリカにおける「オプラズ・ブッククラブ」の隆盛とその影響について」という論考にまとめ、平成26年3月末に刊行した『外国語研究』(第47号)(愛知教育大学外国語外国文学研究会)に掲載した他、平成26年度中の出版を目指している単著による研究書『ホールデンの肖像』(新宿書房)の中にも、1章を割いて発表する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
平成25年度に関しては、国内での文献探査とその読み込みによる下準備に加え、当初の予定通り、8月末から9月前半にかけ、カリフォルニア大学ロスアンゼルス校を拠点に調査対象である現地での調査・研究を行なうことができた。 そしてこれらの結果、大別して以下の二点の収穫があった。 まず第一点として、本プロジェクト全体を通じて最も力を入れたかったテーマ、すなわち、黒人人気タレントのオプラ・ウィンフリー(Oprah Winfrey)が司会を務めるアメリカのテレビ番組『オプラ・ウィンフリー・ショー』の1コーナーとして1996年に誕生した「オプラズ・ブッククラブ」(Oprah's Book Club)の隆盛とその影響について、詳細な事実確認を行うことができたことである。またこの番組がきっかけとなって起こった「ジョナサン・フランゼン論争」の詳細について調べることができ、近年のアメリカにおいて高踏的な知識人階級(ハイブラウ)層と、中流階級読者(ミドルブラウ)層の間に、読書嗜好の上で顕著な乖離が見られることを明らかにすることができたのは、大きな収穫であった。 また第二点として、上で得た知見を介して、ここ十年ほど続けてきた「大衆向けロマンス文学の研究」と、本研究(ブッククラブに関する研究)との接点が明確になり、双方の研究成果を合わせた形での研究書の執筆を進めることができたことが挙げられる。この研究書については、現在、校正の段階に入っており、平成26年度中には確実に出版することができる見込みである。 以上、二点の観点から、本研究は当初の計画以上に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度の調査・研究により、アメリカにおけるブッククラブの起源と発展、そしてその問題点などについて詳細に調べることができ、またその成果を研究書の形にまとめることができた。この点については、満足すべき成果が得られたと考えている。 一方、その前年、すなわち平成24年度の調査・研究によって、近年のイギリスにおけるブッククラブの発展と実情についてかなり興味深い論点を見出すことができたのだが、この時に得た成果については、先の研究書の中に盛り込むことができなかった。というのも、先の研究書は「アメリカにおけるブッククラブの起源と現状」を主たる論点としているので、「イギリスにおけるブッククラブ」の話題は、この論点に若干沿わないところがあったからである。 しかし、平成24年度の調査・研究で得られた知見の中に、今後の研究の萌芽となりそうなものもあり、この方面の調査・研究を中途半端な形で放置することは本意ではない。よって本プロジェクトの最終年度となる平成26年度については、再度「近年のイギリスにおけるブッククラブの隆盛とその影響」というテーマに取り組み、先にまとめることができた「アメリカにおけるブッククラブの隆盛とその影響」についての研究に連結させつつ、今後のさらなる研究の方向性を探って行きたいと考えている。
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次年度の研究費の使用計画 |
勤務校での煩瑣な校務の影響で、本研究の遂行上最も重要なアメリカ・イギリス両国における現地での調査・研究のために、当初予定していたよりも短い期間しか割けなかったことが、当初の予算に余剰を生じさせてしまった根本原因である。特に平成24年度に2週間しかイギリスに滞在できなかったことが響き、その分の余剰が翌年、さらに翌年へと持ち越しになってしまったことが大きな要因となった。 この問題は、平成26年度になれば解決するという性質のものではないが、最終年度となる平成26年度には、出来る限り校務をやりくりして研究のために必要な時間を捻出し、予算の有効活用を行う予定である。 本年度に関しては、平成24年度にも使用し、その有用性を確認しているロンドン大学図書館及び大英図書館を研究拠点とし、アメリカにおける「オプラズ・ブッククラブ」の隆盛に刺激を受けて作られたイギリス版ブッククラブである「リチャード&ジュディ・ブッククラブ」についてさらに詳細な調査を行う予定にしており、このために経費の70%程度を旅費として使用する予定である。また残りの30%については、主として文献購入費、文献コピー費などに使用したい。
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