本研究では、一般の「書店」とは異なるアメリカ独自の文学流通メディアと言える「ブッククラブ」を取り上げ、その歴史的発展経緯とその文化史的意義について、独自の調査・研究を行なった。 本研究の中で特に注目したのは、1927年に創立された会員制書籍頒布団体である「ブック・オブ・ザ・マンス・クラブ」と、1990年代末に創立された図書紹介テレビ番組「オプラズ・ブッククラブ」という二つの異なる種類のブッククラブである。 両ブッククラブとも、広大な国土に比して極端に書店が少ないアメリカにおいて、読書人口を飛躍的に増やすことに大きく貢献したのだが、しかしその反面、特定のブッククラブが選定する「良書」だけが爆発的に売れ、文学的に高い評価を得ることになるなど、文学作品の評価に恣意性が持ち込まれることにもなり、さらにそのことがこれらのブッククラブを支持する層(主として中流階級の女性読者層)と支持しない層(主として上流階級の男性読者層)にアメリカ国民を二分することにも繋がり、文化的階層間の対立を引き起こすことにもつながってしまった。このように本研究では、ブッククラブなるものがもたらしたものを功罪両面から検討しつつ、その文化的意義を明らかにした。 なお、本研究の成果の一部は単著の研究書(『ホールデンの肖像 ペーパーバックからみるアメリカの読書文化』新宿書房・2014年、303頁)として出版された。本書に対しては、『週刊ポスト』(坪内祐三氏)、『週刊読書人』(大串尚代氏)、『図書新聞』(小竹由美子氏)、『北海道新聞』(越川芳明氏)、『北國新聞』『河北新報』『愛媛新聞』『宮崎日日新聞』『沖縄タイムス』(以上、栗原裕一郎氏)、『みすず』(長谷正人氏)、『週刊新潮』、『日刊ゲンダイ』、『出版ニュース』『望星』に好意的な書評が出たことを併せて記しておく。
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