研究課題/領域番号 |
24520287
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
野谷 啓二 神戸大学, その他の研究科, 教授 (80164698)
|
キーワード | G.K.チェスタトン / 中世主義 / 小イングランド主義 |
研究概要 |
Jed Esty, A Shrinking Island: Modernism and National Culture in England (2004)の「縮小する島イングランド」の議論は、ポストコロニアル時代へと動き始めたネイションの想像に、元来コスモポリタン的であったモダニズムの位相に代わって、自己の文化伝統へと向かわせる内向きな視点が誕生したことを指摘するものであった。しかしこうした変化は、モダニズムというハイブラウな文学の登場以前にも、少なくても思想型としては、G.K.チェスタトンに見て取ることができる。Julia Stapleton, Christianity, Patriotism, and Nationhood: the England of G.K. Chesterton (2009)を議論の出発点とし、ボーア戦争時において活発となったエドワード時代の「愛国心」をめぐる議論の状況を精査し、カトリシズムを前面に押し出す中世主義的な主張がなぜ無視されなくなったのか、チェスタトンの最初の小説である『ノッティングヒルのナポレオン』を主な検討資料として明らかにした。 The Victorian Age in Literatureなどの批評、いくつかのエッセイ集、自叙伝にみられる見解についても考察し、カソリシズムによる愛国心は拡大を続ける大英帝国主義に反対する立場である「小イングランド」主義に帰結することを明らかにした。小イングランドのイメージは、多分に中世主義的な相貌を備えた、中世におけるイングランドを規範的価値とするものであり、チェスタトンはカトリック信仰者として帝国主義を否定し、イングリッシュネスの不可欠な要素として「収斂するイングランド」、その意味ではエスティの指摘した動きと重なりあうものと言える。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
元来の構想では、すでにエリオットに関する議論が論文の形で発表されているはずであった。しかし学内行政業務(副研究科長職)遂行のためにエフォートを割かざるを得ない状況となり、研究は資料収集、検討を加える段階にとどまったため、上記の自己評価とせざるを得ない。
|
今後の研究の推進方策 |
エリオットのカトリック信仰はイングランドの愛国的雰囲気と共鳴し、『四つの四重奏』という長詩を生んだ。ボーア戦争を契機とする思考の結果到達したチェスタトンの小イングランド主義思想は、小さなborough単位の市民的自由を強調するかに見える『ノッティングヒルのナポレオン』を生んだ。「異形のもの」として近代主権国家イングランドのなかで位置づけられてきたカトリシズムが、イングリッシュネスに組み込まれるためには、戦争期の愛国心と結びつけられる必要があったようである。最終年度においてはJason Harding, The Criterion: Cultural Politics and Periodical Networks in Inter-War Britain (2002)、Christendomなどの新聞・雑誌メディアに収載された記事を解読し、イングリッシュネスの不可欠な要素としてキリスト教信仰を再活性化させることに根ざす、チェスタトンとエリオットの反近代主義的文学思想のありようを、先行するヴィクトリア時代との差異を踏まえて整理する。ニューマンの衣鉢を継ぐものとしてチェスタトン、エリオットの姿を浮かび上がらせる。
|
次年度の研究費の使用計画 |
残金が10000円と比較的少額であるため、消耗品等で消化するのではなく、次年度予算に組み入れて使用するほうが賢明であると判断した。 過去2年度の研究計画と同様、英国図書館に出張するための旅費、カトリシズム、英国史関連の図書の購入に使用する計画である。
|