本研究は1940年代初頭に出版された4つの文学作品をとおして当時のアメリカ南部の文化的自画像を探る試みであるが、平成27年度(最終年度)は以下のような活動を行った。 1.研究対象となる作品のうち、Willliam Alexander Percy の自伝 Lanterns on the Levee について「W.A.パーシ『護岸の灯火』――引き裂かれた自己と南部貴族の黄昏」と題する論考を『英語英文学論叢』に発表した。これは伝統的な南部の価値観を体現する父との関係と<引き裂かれた自己>をキーワードにこの自伝の意味を考察したもので、南部の歴史に対する二つの立場、すなわち、保守的懐古派とリベラル派、のうち、前者に属するとみなされているパーシーに、リベラル派への潜在的な近さがあるのではないかと示唆したものである。 2.本来は研究の直接的な対象にはあげていなかったが、学会活動の必要上から Robert Penn Warren についての研究を行い、「ロバート・ペン・ウォレン『天使の群れ』と白人性」を九州アメリカ文学会第61回大会シンポジウムにおいて口頭発表した。 3.「南部作家とジョン・ブラウン――ロバート・ペン・ウォレン『ジョン・ブラウン伝』を中心に」と題する論文を論文集『ジョン・ブラウンの屍を越えて』において発表した。 4.Faulkner and Warren という論文集の書評を学術雑誌『フォークナー』に掲載(近刊)した。 残念ながら、本研究はまだ研究計画全体を完了してはいない。フォークナーの『村』については草稿を準備しているが完成稿と呼べる段階に至っておらず、エイジ―の『われらが名士を讃えん』は作品分析を行っている段階である。この両者については28年度中に論文を発表するつもりであるが、ハーストンの『路上の砂塵』については研究の完成は当面断念せざるを得ない状況である。
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