研究課題/領域番号 |
24520296
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
喜納 育江 琉球大学, 学内共同利用施設等, 教授 (20284945)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | アメリカ文学 / チカーノ(ナ)文学 / マイノリティ文学 / 境域 / ジェンダー / グローリア・アンサルドゥーア / 沖縄 |
研究実績の概要 |
本年度は、多文化主義的文学批評によって分類・体系化されて続けてきたアメリカのマイノリティ文学研究に既存する「人種」や「エスニシティ」の言説を「境域」という視点から捉え直し、トランスナショナルな視野を念頭において再定義することを試みた。チカーナとアメリカ先住民の文学に表象される「境域」は、主にメキシコやラテンアメリカとの間に横たわる北アメリカの「国境」とリンクする地政治学的な「境域」であったが、昨年度に着目したカレン・テイ・ヤマシタやトリン・T・ミンハの言説に言及される「国境」は、アメリカ大陸の外部にあって、トランスパシフィックな距離感を伴っており、こうした距離感が、書き手のトランスナショナルな視野を身体を通して体現しようとする表現と不可分であることがわかった。ヤマシタやミンハのディアスポリックな想像力は、アジア的身体の内部に文化的な「境域」を構築していると考えられる一方、ジェンダー化された身体の言説は、アンサルドゥーアの境域論におけるセクシュアリティの「境域」とその表象を読み解くうえでも重要になると考えた。この展望のもと、本年度はサンフランシスコ州立大学エスニックスタディーズ学部で人種・セクシュアリティ研究を行っているエイミー・スエヨシ博士にも研究上の助言を求めたところ、境域文学とクイア理論の関係についても視点を広げる重要性を認識することとなった。さらに、アンサルドゥーアの「境域」論を、日本と台湾などのアジア地域との「境域」としての沖縄における文学表現の考察にも応用し、アメリカ文学における「境域文学」というジャンルは、世界的な文学を論じるうえでも普遍性をもつという点についても確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
最終年度の7月を目処に、過去2年間の研究成果とこの年度の成果をまとめた論文を執筆し、8月から9月にかけて補足の調査を行うために渡米した際に、執筆した論文について的確な助言を与えることのできる研究者と面談し、その研究者からの評価や助言をもとに、論文の精度を高め、最終的にはアメリカのアメリカ学会など国際的な学会、あるいは、日本英文学会や日本アメリカ文学会などの国内の学会で発表することを予定していたが、研究者の予定により、適切な時期にフィードバックを得ることができなかったため、論文の一部の執筆が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度も「境域」という批評の概念にもとづいて「境域文学」の構築について考えてきたが、アメリカ文学をトランスナショナルな視点から捉え直そうとするうちに、比較文学的な研究になる傾向が強まっている。このような傾向になる必然性について、論理的に説明することが求められるため、本研究の文学批評としての精度を高める必要がある。また、米墨の国境だけでなく、ハワイなどの文学的遺産にも目を向け、太平洋島嶼地域におけるアメリカの文化的プレゼンスについても論じていく必要がある。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終年度に「境域」の批評概念を基軸として、アメリカ文学における「境域文学」のジャンル確立の意義について理論化した論文を完成させるうえで、個別の作家の作品分析を深化させるための情報収集を、聞き取り調査等によって実施する必要が生じたが、調査対象者の都合により、次年度で再調整する必要があることが判明したことから、外国旅費の一部に次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
成果となる論文に必要な資料の補足的な収集や、国際学会での研究発表のための外国旅費と、論文執筆に必要な資料の整理等の補助者への謝金、そして備品の購入に使用する予定である。
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