研究課題/領域番号 |
24520297
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
市川 千恵子 茨城大学, 人文学部, 准教授 (10372822)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 女性医師 / アラベラ・キニーリー / メアリ・シャリーブ / フェミニズム / アンチ・フェミニズム / 世紀末 / 身体 / 女性のネットワーク形成 |
研究実績の概要 |
平成26年度の前半は、前年度の研究成果を国際学会での研究発表にまとめた。具体的には、キニーリーによる女性の身体運動への反対論を中心に、スウェーデン式運動家Eugene Sandow や、女性運動家Laura Ormiston Chantらの議論、さらに女性のジム・インストラクターをヒロインとする小説(George Paston, The Career of Candida, 1897)を検証した結果、スポーツを通した女性の身体把握と自己管理は、自律的主体獲得の重要な一要素であったことが判明した。実際に女子教育においては初等から高等教育に至るカリキュラムに身体活動が採用され、健康な女性の身体への関心が強まる一方で、この現象は優生学への傾倒という時代を反映している面も否定できないのである。また、本年度の後半は、シャリーブが世紀転換期に女性の各年代における身体の変化について論じた The Seven Ages of Woman: A Consideration of the Successive Phases of Woman’s Life (1915) を手掛かりに、キニーリーの作品にみられる老い、身体、セクシュアリティの表象を考察した。キニーリーは長編小説Dr Janet of Harley Street (1893)と短編 ‘A Beautiful Vampire’ (1896) において、ゴシック要素と優生学思想を文学的に融合させている。注目すべきは、加齢が世紀末の退化と退廃の一現象として表象されていることであり、老齢男女の「若さと美しい身体」に対する執着は、今世紀まで継承される個人の意識と文化をめぐる問題を示唆する。この論考については、2015年8月27~29日に開催される国際学会(Leeds Trinity University)での研究発表が採択されている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エリザベス・ブラックウェル、アラベラ・キニーリー、メアリ・シャリーブと、三人の女性医師を中心に、ジャンル横断的な著作物を検証することができた。前年度のロンドンでの資料収集の続きとして、9月のリサーチでは、ブラックウェルによるネオ・マルサス・グループの発行物への寄稿論文をWomen’s Library (LSE) において閲覧することができた。また、2014年9月4日には、British Association for Victorian Studiesの大会(ケント大学)において、研究発表の機会を得た。キニーリーの議論を中心に、女性の身体をめぐる時代の政治や文化のコンフリクトを検証した結果、フロアーからはさらに帝国への影響についても示唆があり、身体活動及び自律的身体管理は女性のグローバル・ネットワーク形成の様相を検証するうえで、欠かせない視点であることに気づかされた。また、昨年後半の研究成果についても、今年の8月下旬に開催予定の国際学会において、研究発表のプロポーザルが採択されている。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、本研究課題の最終年度にあたるため、キニーリーのフィクション及びアンチ・フェミニズム論と、メアリ・シャリーブの健康指南書、女性論、性道徳論研究を総括する予定である。まず、時代の科学・医学的言説を視野に入れ、優生学思想と女性の関係を、フェミニズム、反フェミニズムの両陣営の論説から考察する。同時に女性の身体と性の守護者としての女性医師と、優生学思想への傾倒との相関関係を照射する。次に、19世紀の男性優位の医学の分野に参入し、女性の身体を医学的言説の「受け手」という位置から解放しようとした女性医師著述家による仕事の諸相を可視化し、世紀末のジェンダーの揺らぎを、国家・帝国をめぐる政治的葛藤とともに検証する。最終的には、書くという個人的営為が自己の声と身体の回復を希求する女性の政治的行為であることを再考し、さらに読者の意識や社会規範の変革をもたらす可能性を秘めた文学テクストのダイナミズムを明示することを目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
1)注文していた洋書が平成26年度内に納品されなかったため、物品費の使用総額が予定よりも少ない結果となった。 2)海外での資料収集を平成26年度の後半に予定していたが、学内業務の関係から中止せざるをえなかった。
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次年度使用額の使用計画 |
1)平成26年度内に納品されなかった洋書の支払いに使用する。 2)国際学会研究発表と資料収集のための2度の海外旅行費に充てる。
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