<最終年度に実施した研究の成果>コンラッド晩年の歴史小説『黄金の矢』における彫塑的想像力と視覚に支えられた西欧的個人主体の関係について、イギリスのコンラッド学会で発表し、好評を得た。この論考は結局、2016年に英国で出版予定の拙書、Rethinking of Joseph Conrad's Concepts of Community: Strange Fraternityの一章を構成することになった。 <研究期間全体の成果と今後の研究の展開に関する計画>コンラッドの後期作品をヨーロッパの大陸哲学を援用して再評価してきた今回の採択課題研究の最終年度において彫刻の問題に取り組んだことは、コンラッドにおける言語芸術と造形芸術の相互関係の重要性について考察するきっかけとなり、平成28年度科研費採択課題であるルネ・マグリットとコンラッドの比較へとつながった。マグリットとコンラッドの比較においても、大陸哲学の知見は有効であり、この意味でも24年度採択課題研究は不可欠であった。一方で、ポーランドとリトアニアからなる16世紀のルブリン連合のコスモポリタン的民主主義との比較を通してコンラッドの共同体概念を明らかにする研究の成果に関しては、一定の調査・研究はできたものの、論文には十分取り込めなかった。これについては、次の採択課題で取り組んでいるコンラッドの過小評価された前期作品群の再評価においてもあてはまる論点であるため、今後さらに追究していく予定である。 <意味・重要性>コンラッドをデリダ等の大陸哲学で読む試みはないわけではないが、まだ定着しているとはいいがたく、その中で、とくにほとんど読まれもしないコンラッドの過小評価された後期作品を大陸哲学で読む本研究は、二重に独創的であり、コンラッド研究に今までにない視点を提供できたと思われる。
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