研究実績の概要 |
今回3年間にわたる本研究の成果として、神戸市外国語大学研究所より叢書(_The Spirit of No Place: Reportage, Translation and Re-told Stories in Lafcadio Hearn_研究叢書55.2014. 230pp.)を出版することができた。ハーンのアメリカ時代における語りの特徴を「報道」「翻訳」という観点から検討し、それを日本時代(1890~1904)の作品と比較し、異言語異人種異文化接触時にしょうじる翻訳不可能な沈黙部分、すなわち語り得ないものや民族の過去の記憶をハーンが、幽霊談(「再話」)という形式を用いて表現した点に注目して論じた。特に固有の民族や土地を越え 新たに次世代へ向かって語り継ぐ「クレオール化」したトランスナショナルな幽霊談としてのハーンの語りを論じたのが特徴である。平成25年にポーランドのアメリカ学会で発表した関連論考(“Lafcadio Hearn’s Oceanic Catastrophe Stories: Cross-cultural Allegories in Chita (1889) and “A Living God” (1897))は学会のウェブ雑誌に掲載予定である。 最終年度には予定していた共同研究者ハッケンバーグ氏とのシンポジウムは残念ながら実現することができなかったが、クロスナショナルな視点から、ノートルダム大学名誉教授ダグラス・キンジー氏(画家)、またクレア・クッチオ氏(日本文化、版画研究)に講演を御願いした。どちらも学生を含めた勉強会の企画となり、フィードバックも十分あり有意義であった。 ハーン研究は、今「世界文学」としての視座から見直しが始まっている。今回の研究を基盤にさらにハーン研究を、国境を越えた「物語」の可能性を探るという点から進めていきたいと考えている。
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