研究課題/領域番号 |
24520313
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
小林 酉子 東京理科大学, 理工学部, 教授 (60277283)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 英国ルネサンス演劇 / 舞台衣装 / 宮廷饗宴 / 巡幸 / ペジェントリー |
研究概要 |
エリザベス朝は英国演劇史上の画期的な一時代であったが,実際の舞台の有りようについては解明されていない点が多い。本研究は,宮廷で上演された仮面劇,祝典等について,どのような衣装・演出であったかを歴史的に検証し,それらが民間劇団へどのような影響を与えたかを考察しながら,商業劇場での上演の実相を明らかにしようとするものである。 8月22日, 23日,台湾高雄市内,国立科学工芸博物館にてThe 25th International Costume Congress が開催され,同会議で,Representation of Classical Characters on the Elizabethan Stage のテーマでポスター発表を行った。24日,高雄市から台北市まで移動し,市内の国立歴史博物館で研究資料収集を行った。 また,論文「英国ルネサンス演劇における劇作上の変換と悪役・道化衣装」を国際服飾学会誌第42号に発表した(2012年11月20日刊行,pp.31-43)。さらに,同学会誌英語版 Journal of the International Association of Costume No.42 (2012) に ”Vices and Fools on Stage in Early Modern England - Changes in Their Role and Apparel in Relation to Dramaturgy- ” (pp.44-50) も発表した。 これらの成果により,ギリシャ・ローマを舞台とした劇が,宮廷及び民間劇場でどのような衣装で演じられていたのか,悪徳役・道化役の移り変わりとともに,写実的な喜劇的人物が誕生していく過程を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、Royal Pageantryのうち ,Royal Entry(入市式)を中心に研究を行う計画であった。チューダー朝君主の戴冠パレード,その他の入市式については,王室会計簿,饗宴局記録等から衣装関係記載をたどることができる。王室・民間を含め,英国でのPageantryが歴史的にまとめられているR. Whitington, English Pageantry,およびJohn Nichols, The Progresses and Public Processions of Queen Elizabeth I などから,ヘラクレス等の神話的人物が,Royal Entryの際のpageantに登場していたことが明らかである。それらの衣装が,民間演劇にも影響を与えた事を論証し,国際服飾学会での発表につながった。 入市式では,市の要所数カ所に仮説舞台が設置され,スピーチや寸劇が演じられ、天使や悪魔,聖人,歴史上の人物,道徳的美徳を擬人化した人物,巨人などが登場した。善天使や悪天使,悪魔,美徳の擬人化は,中世の神秘劇や道徳劇だけでなく,エリザベス朝の劇作家マーロウの『フォースタス博士』(1588-89執筆)にも登場する。しかし,次第に悪徳や悪魔は舞台から姿を消し,フォールスタッフのような,写実的喜劇的人物が現れるようになる。このような過程を歴史的に検証し,論文発表を行った。 エリザベス時代の馬上槍試合トーネメントは,既に娯楽へと移行しており,馬具装飾は饗宴局の管轄であった。騎士たちは華麗に装い,馬衣にも趣向が凝らされたが,それらは広義の舞台衣装といえ,劇場での舞台衣装類推の手がかりとなる。研究計画では,24年度にこのテーマについても研究を行う予定であったが,次年度へ繰り越しとなった。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度は、Royal Pageantryのうち ,Progress(巡幸)を中心に研究を行う。エリザベス女王は特に治世前半の夏の間,ロンドンを出て数多くの巡幸を行ったが,滞在先となる宮臣の城館では連日の饗宴が続き,貴族お抱え俳優たちも演者に加わっていた。女王巡幸は,John Nichols, The Progresses and Public Processions of Queen Elizabeth Iにまとめられており,この文献は本研究に不可欠である。 平成25年は上記の文献資料を中心に研究を進めるとともに,25,26年の2年間で巡幸地の実見調査を行う。巡幸地となった城館に現存するタペストリー等からは人物衣装を推測できるほか,装飾品は舞台衣装に用いられた布地資料となる。また室内ホールでの舞台構成は,後の商業劇場にも取り入れられたと考えられ,実見調査はエリザベス朝劇場舞台を考察する上で欠かせない。実見調査対象とする城館は,地域別2グループに分け, a : 25年度 英国北・西部,b:26年度 英国東部で,それぞれ調査を行う。 さらに,24年度の計画であった宮廷トーナメントの演劇への影響についての研究は,25年度への繰り越しになっており,これも併せて,[1]衣装とその調達,[2]演出の実態について,各巡幸とトーナメントの記録,巡幸地であった城館の実見調査から,広義の演劇としての饗宴,祝典を総括し,商業劇場への影響をまとめるのが25年の研究計画である。
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次年度の研究費の使用計画 |
エリザベス時代の馬上槍試合トーネメントにおいては,騎士たちの装いや馬具は広義の舞台衣装といえ,劇場での舞台衣装類推の手がかりとなる。研究計画では,24年度にこのテーマについても研究を行う予定であったが,25年度へ繰り越しとなった。このため,24年度の残額は,上記のテーマの研究書購入にあてることとする。 その他,25年度研究費は,当初の計画通り,巡幸関係研究書,英国中近世史関係図書の購入,国内学会発表・資料収集・調査のための旅費に使用するほか,英国で,エリザベス女王のProgress(巡幸)を中心に研究を行う費用に充当する。文献資料収集とともに,巡幸地の実見調査を行うが,Burghley House 等,城館が現存する所では,巡幸の文献資料と照らし合わせながらの調査が可能で,饗宴の具体的な様相が把握できる。現在廃墟となっているKenilworthでも,当時の饗宴の規模,構成を推測できる。Hardwick Hallには女王の巡幸はなかったが,エリザベス時代当時の室内装飾がそのままの形で残されており,15~17世紀初頭の布地・装飾の宝庫といえる。
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