研究課題/領域番号 |
24520313
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
小林 酉子 東京理科大学, 理工学部, 教授 (60277283)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 英国ルネサンス演劇 / 舞台衣装 / 宮廷饗宴 / 巡幸 / ペジェントリー |
研究実績の概要 |
エリザベス朝は英国ルネサンス演劇の最盛期に当たるが,実際の舞台演出・舞台衣装のありようについては,明らかにされていない部分が多い。本研究は,演劇的要素を多分に利用した王侯入市式や巡幸,宮廷饗宴マスク,都市祝祭・祝典から,1590年代から盛んになる民間商業演劇の演出・衣装の具体像を明らかにしようとするものである。 平成26年度は,上記の研究内容のうち,王侯巡幸と都市祝典を中心に実地調査と文献資料の精査を実施した。エリザベス女王は治世中,夏の間に地方の都市,貴族の城館などへ巡幸を行ったが,この記録を網羅的にまとめたJohn Nichol's The Progresses and Public Processions of Queen Elizabethに基づき,Sudely Castle, Penshurst Place, Audeley Endの各城館で実地調査を行った。 この実地調査,および文献資料による研究をもとに,The 26th International CongressにおいてTranslation of Masking Costumes in the Early Elizabethan Period,The Renaissance Society of AmericaにおいてImage of Classical Characters and Its Transition in the Early Modern Englandの研究発表を行った。また,東京理科大学紀要(教養篇)に「エドワード6世,メアリー女王の宮廷饗宴(1) ーエドワード即位祝典からLord of Misruleパレードまでー」,「エドワード6世,メアリー女王の宮廷饗宴(2) ーLord of Misruleからメアリー女王の饗宴までー」の論文を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は,商業劇団が深く関わっていたPageantry (野外式典)を研究対象とし,Royal Pageantry,Civic Pageantryのそれぞれがどのような衣装・演出であったか,衣装はどのように調達されたのか,民間劇団へどのような影響を与えたかを検証しながら,商業劇場での上演の実相を4年間の研究期間で明らかにしようとしている。 Royal Pageantryについては,24年度に入市式,25年度に巡幸を中心に文献・実地調査による研究を行った。26年度は25年度に続いて,巡幸の実地調査を実施すると共に,Civic Pageantryの文献資料収集・研究を行った。 これまでの研究実績は以下の通りである。入市式や巡幸時の饗応では古典古代のテーマが1570年代から取り入れられ,神話の神々がペジェントに登場するなど,ルネサンス時代の特色が表れる。ロンドンの民間劇場の舞台でも,これに遅れて『ジュリアス・シーザー』『アントニ-とクレオパトラ』などの作品が1590年代以降に登場する。商業劇場の舞台では,Royal Pagentryにみられる衣装・小道具などを部分的に取り入れながら,劇の時代性を表現した。俳優・劇作家は,王侯貴族,都市ギルドの主催による饗宴・祝典に参与しており,その経験が商業演劇に受け継がれていたことは否定できない。 最終年度となる27年度は,1600年代以降に最盛期を迎えるCivic Pageantryについてさらに研究を進め,Royal Pageantry,Civic Pageantryの影響が,民間劇場の舞台にどのように活かされたのかをまとめる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
英国ルネサンス演劇がどのような衣装で演じられていたかを解明する手がかりとなるものには,宮廷饗宴の他,野外式典のPageantryがある。Pageantryは王室が主体となるRoyal Pageantry,市が主催するCivic Pageantryに大きく分けられるが,本研究は,各々のPageantryの[1]衣装と調達の背景,[2]演出の実態を分析し、商業劇場への影響を歴史的にたどる手法をとる。平成24年度と25年度はRoyal Pageantry,26年度と27年度はCivic Pageantryを中心とし,ほぼ予定通りに研究成果を公表することができた。 当初の研究計画では,平成25年,26年の2年間で巡幸地の実見調査を行い,27年度はロンドン市内の図書館・博物館で,アーカイヴの調査,資料収集にあたる予定であったが,25年,26年で27年度予定分資料を入手することができたため,今後は,Civic Pageantryの文献研究を優先的に実施していく。Royal Pageantryについては,王侯入市式記録,巡幸記録の調査を終え,研究成果を発表しため,27年度はCivic Pageantryについて,市長就任式・職業組合祝典記録,戯曲作品テクストなどの文献資料を中心に研究を進める。エリザベス朝の商業劇団は市井の劇場のみで公演していたわけではなく,宮廷や貴族の館,あるいは市の祝祭で役を演じてもいた。商業劇団俳優たちは,Royal Pageantry,Civic Pageantry双方に雇われ,出演していたのであり,彼らが民間演劇に活動の舞台を移してからは,Pageantryの要素が商業劇場に取り込まれていった。英国ルネサンス演劇興隆期の舞台演出,衣装はどのようなものであったのか,最終年度となる27年に総合的な研究成果をまとめることを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度は,文献書籍(約10万円)を購入し,8月下旬に英国で実地調査を行った。円安により航空運賃,英国での滞在費,移動費用,収集する資料代が当初予定よりも高額になり,研究資金の不足が見込まれたため,27年度の交付予定額のうちから10万円の前倒し請求を行った。これにより26年度は,英国での実地調査を含め,研究計画をほぼ予定通りに達成でき,成果発表を行うことができた。5342円はその残金である。
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次年度使用額の使用計画 |
平成24年から27年までの4年間の研究のうち,25年と26年に英国での実地調査・研究を行い,27年度は国内での調査・資料収集,研究発表の予定である。上記の残金は27年度交付予定額に加算し,前述の研究に使用する。
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