従来、エリザベス朝演劇は戯曲の時代設定とは無関係に、当代の衣装で演じられたとするのが通説であった。しかしPageantryや王室饗宴の記録をたどると、この通説とは異なる事実が浮かんだ。エドワード6世の王室饗宴にはヘラクレスやアキレスなどギリシャ英雄の仮装演者が登場したが、饗宴局会計記録から、彼らはライオン頭部を模った肩章を付けた白銀欄のギリシャ風チュニックに各々の名が色塗料で記された衣装であったことがわかった。古典古代のテーマはメアリー代、エリザベス代の饗宴マスク(仮面仮装劇)にも見られる。 27年度の研究では、商業劇団が結成される以前、宮廷饗宴ではどのような衣装でこれらのマスクが演じられていたかを明らかにした。宮廷饗宴衣装の一部は俳優への祝儀や払い下げの形で宮廷外へ流れたこともあり、商業劇団が市井の劇場で古代ギリシャ・ローマを舞台とした戯曲を演じる際に、宮廷饗宴での意匠が取り入れられるようになったのである。これらの研究成果をもとに論文「チューダー朝における古典古代の演劇衣装」、「エドワード6世,メアリー女王の宮廷饗宴(2)ーLord of Misruleからメアリー女王の饗宴までー」、"Classical Costumes in the Early Modern England"を発表した。
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