研究課題/領域番号 |
24520315
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | 明治学院大学 |
研究代表者 |
佐藤 アヤ子 明治学院大学, 教養部, 教授 (70139468)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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キーワード | Margaret Atwood / Oryx and Crake / The Year of the Flood / MaddAddam / 新ディストピア小説 / カナダ文学 / 日本カナダ文学会 / 国際ペン東京大会 |
研究概要 |
「日本カナダ文学会30周年記念研究大会」(2012/7/29)でシンポジウム《マーガレット・アトウッドの文学を読み解く》を企画し、4名で発表を行った。このシンポジウムではアトウッドの初期作品から最新作までを網羅することができ、アトウッド文学の全体像を知る貴重なものとなった。佐藤は、「マーガレット・アトウッドが描く《新ディストピア小説》」と題して発表した。 本発表では、アトウッドが21世紀初頭から進めている近未来小説「MaddAddamの物語」の三部作のうち刊行されている最初の二作、Oryx and Crake (2003)とThe Year of the Flood (2009)に焦点をあて、この近未来小説を、ジョージ・オーウェルの『1984年』流の暗黒の世界を描いた従来型のディストピア小説と位置付けるのではなく、アトウッドが希望へ向かう出口の方向を示す《新ディストピア小説》という新文学ジャンルを確立していると分析した。本発表は、アトウッド文学に新しい方向性を示すものとして高い評価を得た。第三部MaddAddamは2013年9月に刊行予定。 この見解に至った理由がいくつかある。2010年9月の国際ペン東京大会「環境と文学―いま、何を書くか」でのアトウッドの基調講演がその一例である。本講演では自作品への言及は避けていたが、環境破壊、種の絶滅、遺伝子工学等に警鐘を鳴らすアトウッドが、この危機を伝えるには「理解の神経回路」を作る物語が必要だと語り、作家としての役割に言及していたこと。また、アトウッド氏と佐藤とのインタビュー(2012/9 トロント)、トロント大学、ブリティッシュ・コロンビア大学での資料収集、Eva-Marie Kroller教授、Sherrill Grace教授等との意見交換が本研究に大変役立った。なお、本発表は『カナダ文学研究第20号』に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
①シンポジウム参加:「日本カナダ文学会30周年記念研究大会」に参加し、シンポジウム「マーガレット・アトウッドの文学を読み解く」を企画。「マーガレット・アトウッドが描く《新ディストピア小説》」を発表した。特に最新作The Year of the Floodに関する発表、論文は日本ではまだなく、今後のアトウッド研究に役立つものと期待された。また、最新作が従来型の暗黒の世界を描いたディストピア小説ではなく、希望へ向かう出口の方向を示す新ディストピア小説という新文学ジャンルをアトウッドが確立していると分析したことも斬新で、アトウッド文学に新しい方向性を示すものとして高い評価を得た。アトウッドはSurvival: A Thematic Guide to Canadian Literature(1972)で、「われわれは生き残ってきたのか。もしそうならば、生き残ってその後に何が起きるのか」と疑問を呈している。そして今、「生き残るために地球を守らなくてはならない時代であると。小説家には、社会的良心がある」と。本発表では、この「生き残る」精神がアトウッドの最新作にも脈々と受け継がれ、《新ディストピア小説》という文学ジャンルを可能にしたと分析。当分析は、今後のアトウッド研究に大いに役立つという評価を得た。尚、アトウッド氏とのインタビュー等が本研究に大いに役立った。②論文執筆:「マーガレット・アトウッドが描く〈新ディストピア小説〉」と題して『カナダ文学研究第20号』に発表。③翻訳出版: M.アトウッド著『負債と報い―豊かさの影』(2012/3 岩波書店)を翻訳出版。The Year of the Flood(『洪水の年』)(2014年岩波書店)の翻訳が現在進行中である。MaddAddamの物語の三部作の最後の作、MaddAddam(2013/9刊行予定)の翻訳出版予定(岩波書店)。
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今後の研究の推進方策 |
「MaddAddamの物語」の三部作の最後の作品MaddAddamが、2013年9月に出版される。この作品においてどのように物語が展開されているかを前二作と比較分析する。また、現在進行中のThe Year of the Floodの翻訳を完了し、すでに翻訳依頼(岩波書店)のあるMaddAddamの翻訳にも取りかかりたい。 アトウッド研究の第一人者であるレディング大学のAnn Howells名誉教授と面談し、意見交換をはかる。アトウッド氏とのインタビューも視野にいれる。 次の論文の執筆に取り掛かる。
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次年度の研究費の使用計画 |
インタビュー関係旅費、謝礼金、書籍代金、必要に応じた物品購入費、アルバイト代金等に使用。
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