研究課題/領域番号 |
24520318
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
吉本 光宏 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (80596833)
|
研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
キーワード | ハリウッド映画 / ショック / ネオリベラリズム / 新自由主義 / 暴力 / 正義 / 偽善 / アメリカ |
研究概要 |
現代ハリウッド映画と新自由主義のあいだにどのような関係があるのかを、過剰な視聴覚的刺激が生み出すショック効果に注目して明らかにすることが、本研究の目的である。平成24年度は、(1)現代ハリウッド映画が多用するショック効果の種類を分類し、それらがどのような手法によって生み出されているのかについての予備的考察を行うこと、そして(2)新自由主義と呼ばれる経済システム、社会制度、統治形態を直接あるいは間接的に論じた文献を読み進めながら、現代ハリウッド映画との接点を探ること、の二つを目標に研究をおこなった。新作ハリウッド映画の鑑賞・分析、DVDなどの映像資料の調査/収集/テクスト解釈を通して判明したことは、ショックをたんなる視聴覚的効果として捉えるのは誤りだということである。多用されるCGやデジタル・サラウンド音響が重要であることは否定できないが、現代ハリウッドのショック効果を純粋なテクノロジーの問題に還元不可能なことは明らかであり、ジャンルや作家性の枠を超えて繰り返される主題や登場人物の造形、物語のパターンや構造に細心の注意を払う必要があることを再確認した。今回特に注目したのが、「絶対的暴力」、「必要な嘘」、そして「操作される時間」という3つの主題である。これらの主題はたんに生理的ショックを生み出す契機として機能するだけではなく、新自由主義の様々な側面を表象可能にするアレゴリー的要素としても解釈できるからである。「必要な嘘」という主題に関連しては、クリストファー・ノーラン監督の『バットマン ビギンズ』と『ダークナイト』を分析した論文を執筆し、『ユリイカ』(2012年8月号)に発表した。さらに、視聴覚効果に回収できない暴力が生み出すショックと新自由主義的時間モデルに焦点を合わせた論考を現在執筆中であり、次年度に論文として、あるいは研究期間終了後に単著書の一部として発表する予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
映画とショック効果の関係について考えるために必要になる理論的基礎固めをおこなうという当初の計画は、これまでのところ順調に進んでいる。本研究に必要な現代ハリウッド映画のDVDを収集するという課題に関しても、特に大きな問題に遭遇していない。ただし、実際研究に着手して判明したのは、機械的に必要なDVDのリストを作成し収集することは、研究を順調に遂行するためにはあまりプラスにはならないということである。研究実績の概要でも記したように、現代ハリウッド映画が多用するショック効果は、たんに視聴覚的テクノロジーによって生み出されているわけではなく、他のスタイルや形式的特徴、物語の構造やパターン、繰り返される主題などとも密接に関係している。したがって、個々の作品の詳細なテクスト分析を通してショックのメカニズムや意味するものを理解し、仮説を立てそれを検証するという地道な作業と並行しながら映画リストの作成を進めるという方針に、研究計画を修正した。結果として当初予定していたよりも、平成24年度に収集した映像資料の量は少なくなっている。しかし、そのことが今後の研究推進にマイナスの影響を及ぼすことはないと期待される。
|
今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要でも説明したように、平成24年度の大きな成果のひとつは、ショック効果を媒介にして現代ハリウッド映画とネオリベラリズムの関係を考える際に、「絶対的暴力」、「必要な嘘」、そして「操作される時間」という3つの主題が重要なのではないかという作業仮説にたどりついたことである。平成25年度はこの3つの主題をさらに発展させるために、理論的考察ならびに具体的な映画作品のテクスト分析を進めていく。また、すでに執筆中の、視聴覚効果に回収できない暴力が生み出すショックと新自由主義的時間モデルに焦点を合わせた論考を、論文ないし講演のかたちで完成し発表するか、あるいは研究期間終了後に出版予定の単著書の一部にするために改訂する予定である。加えて、当初の研究計画に記されている2つの大きな課題、すなわちジャンルや物語の舞台設定の違いを超越して現れる「境界の両義性」という主題を、具体的な現代ハリウッド映画作品のなかに見つけて分析をすること、そしてネオリベラリズムを批判的に考察している理論的言説、なかでもその空間的側面に重点を置いたウェンディ・ブラウンやデヴィッド・ハーヴェイ、サスキア・サッセンなどの著作を精読することを、予定通り実行する。さらに、ニューヨーク大学図書館、ニューヨーク公立図書館などで文献調査・資料収集をおこなうために、平成25年8月に2週間ほど米国出張を計画している。
|
次年度の研究費の使用計画 |
「現在までの達成度」でも述べた通り、研究の推進方策を一部変更した結果、購入した映像DVDの数が当初予定していたよりも少なくなった。ただしこれは本研究を遂行するために必要な映像資料の量が減少したからではなく、資料の選択方法を部分的に修正したためである。したがって、平成24年度に計画していながらも使われなかった研究費のほとんどは、平成25年度に映像DVD購入のために使用されることになるだろう。また、平成25年度に受領する研究費については、図書資料と映画DVDの購入、および米国ニューヨークへの文献調査・資料収集のための旅費として、研究計画調書に記した通りに使用する予定である。
|