研究課題/領域番号 |
24520318
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
吉本 光宏 早稲田大学, 国際学術院, 教授 (80596833)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ハリウッド / 映画研究 / ショック効果 / 新自由主義 / アメリカ研究 |
研究実績の概要 |
本研究3年目の平成26年は、「絶対的暴力」、「必要な嘘」、「操作される時間」、「境界の両義性」などの主題に注目しながらこれまで蓄積してきた研究成果を整理し、これら4つの主題に加えて、正義、自由、偶然などの概念を具体的な映画作品のスタイル的特徴や物語の構造と関連付けて精査し、現代ハリウッドと新自由主義との関係を明らかにしていくという課題に取り組んだ。また7月の終わりから9日間米国へ出張し、ニューヨーク大学の図書館で文献調査を行った。これまでの研究成果の一部である、ショック効果が映画的時空間に及ぼす影響その中でも特に現代ハリウッド映画の複雑化する時空間についての考察を論文の形にまとめることに多くの時間を費やした。複雑化しパズル化する現代ハリウッド映画の新自由主義的といえる時空間の意義を正確に理解するためには、エイゼンシテインを含めた古典的映画理論にまでさかのぼって映画的時空間の構築について考え抜くこと、さらに映画の枠を越えて建築や都市風景を含めた他の表象システムによる時空間の文節化と関連づけて映画的時空間を吟味することの必要不可欠性が、論文の執筆過程で明らかになった。現代ハリウッド映画の新自由主義的時空間を明らかにするための予備的考察としておもにノエル・バーチとスティーヴン・ヒースの理論の可能性と限界を批判的に精読し、デヴィッド・ハーヴェイの時空間理論の映画理論的可能性を論じた論文“Cinematic Space and Time in the Age of Neoliberalism”をTranscommunication, vol. 2 (2014)に発表した(pp. 23-37)。加えて現代ハリウッド映画は新自由主義をどのように可視化あるいは知覚可能なイメージとして文節化するかという問いに具体的な作品を考察することで答える論文を書き進めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
現代ハリウッド映画におけるショック効果と新自由主義のあいだにどのような関係が存在するのかを理論的に考察し、個々の映画作品が経済的および統治のシステムとしての新自由主義をアレゴリーとしてどう表象しているかを具体的に分析するという研究計画は、実質的には順調に進んでいる。研究に必要な文献・映像資料は予定通り収集しており、それらの資料を使っての理論的考察さらに具体的な作品分析に関しても、大きな成果を挙げている。当初の計画からの大きな変更点は、まず研究成果を発表する媒体を日本語から英語へシフトしたこと、英米で学会発表をする予定が計画通りには実現しなかったこと、さらに最終年度にインディアナ大学で行う予定であった研究調査が中止になったことである。最初の点に関しては、英語を媒体に論文を発表したり講演をしたりする方が潜在的により多くの様々なオーディアンスに語りかける機会が増えることを考えての方針転換である。しかしその結果日本語での単著を出版するために草稿を執筆するという当初の計画は一時中断している。第二の英米の学会発表のためにパネルを組織するというプランは、研究協力者のスケジュールや学会のパネル選考経過に大きく左右され、計画通りには行かなかった。より確実に遂行できる計画を立てるべきであったと反省している。最後のインディアナ大学での調査出張中止に関しては、研究を進めていく中でそこで行う予定にしていたジョン・フォード文庫での研究調査が必ずしも必要とは言えなくなったからであり、その結果研究全体にマイナスの影響を及ぼしたわけではない。
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今後の研究の推進方策 |
まずはすでに書き進めている、現代ハリウッド映画は新自由主義をどのように可視化あるいは知覚可能なイメージとして文節化するかという問いに具体的な作品を考察することで答える論文“There Is No Alternative?: Dystopia of Capitalism in Contemporary Hollywood Cinema”を完成させる。平成27年の5月にオーストラリアのシドニー大学においてこの論文にもとづいた招待講演を行うことがすでに決定している。新自由主義については論じ足りなかった“Cinematic Space and Time in the Age of Neoliberalism”を発展させて、現代ハリウッド映画の新自由主義的時空間に焦点を当てた理論的考察を英語論文にまとめた上で、Transcommunication, vol. 3あるいは他の学術誌に発表する。さらに平成27年10月あるいは11月に現代ハリウッド映画についてのミニワークショップ開催を計画している。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成26年度には現代ハリウッド映画のスタイルおよび物語的特徴と新自由主義とのあいだの関係について、パネルを組んでアメリカあるいはイギリスの学会で発表する予定であったが、海外の研究協力者とのスケジュールの調整がつかず計画を変更し、これまでの研究成果を新自由主義と映画の時空間に焦点を合わせた論文にまとめて学術誌に発表する作業に専念することとしたため、未使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度にオーストラリアのシドニー大学で最新のハリウッド映画と新自由主義的資本主義についての講演を行うことが決定しており、未使用額はそのために必要な研究資料の購入その他経費に充てる予定である。シドニーでの講演終了後、発表原稿を研究論文として出版するレベルまで発展させるために必要になる映像・文献資料購入も購入する。さらに海外ないし国内の研究者を招いて現代ハリウッド映画とショック効果についてのミニワークショップを行うために必要な旅費、謝金、資料の複写代などを研究費から支出する。
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