研究課題/領域番号 |
24520319
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
坂内 太 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (60453990)
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キーワード | アイルランド / モダニズム / 身体表象 |
研究概要 |
本研究は、アイルランドモダニズム文学の様々な作品における人間身体の表象分析を主たる対象とするが、本年度は、1970年代のベケット作品を、前後の広範な身体表象のコンテクストの中で捉える研究の議論的な補強に努めると共に、20世紀初頭から今日に至るアイルランド文学・演劇に見られる身体変容と表現様式との関係を考察するリサーチを同時に進めた。 前者に関しては、情報伝達の手段や技術の進展と共に軽視され、流布する情報の中で実質的に周縁化され、消去されてしまう身体的存在と、それに対抗する演劇や詩の在り方とを考察した初年度の研究を推し進め、議論を補強する資料収集を重ねて大きな進展を見た。 後者に関しては、特定の文化的コンテクストにおける変容・変身のモチーフが、演劇や小説などのジャンルを横断して見られること、また、そうした身体表象が、アイルランドにおいては20世紀初頭から現在まで繰り返し現れてきていることを確認し、関連資料の収集と検討を重ねた。また、変身・変容のモチーフに付随する暴力の表象に関するリサーチを平行して進めた。それにより、こうした表象に関する問題が、当初想定していた範囲を超えて、現代の劇作家の諸作品にも通底していることが明らかとなった。結果として、戯曲、詩、小説など合わせて40近い諸作品を有機的に結びつけるようなリサーチとなった。その成果の一部は、開文社『アイルランド文学』に収められ、広く一般の読者に還元することができた。また、このリサーチは、20世紀初頭から現代までのアイルランド文学・演劇における変容、暴力、様式の複雑な関係を展望する新たな研究の可能性をもたらした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度に取り組んだリサーチに関しては一定の成果を得て公表した。各年度の研究対象として明確に切り分けていたジャンル・諸作品が、当初の想定を超えて、複雑に関連し合っていること、個別に分断できない共通要素があることが判明して、リサーチの手法・対象を一部変更したが、新たな研究の可能性が開けたことで予想外の成果があったと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度・本年度の研究成果を踏まえ、アイルランドモダニズムにおける変身・変容のモチーフと様式の関係をジャンル横断的に検討する。また、20世紀初頭から現代までのアイルランド文学・演劇における変容、暴力、様式の複雑な関係を展望する新たな身体表象論の議論的な妥当性についても併せて検討する。
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