研究課題/領域番号 |
24520322
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研究種目 |
基盤研究(C)
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研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
向井 秀忠 フェリス女学院大学, 文学部, 教授 (70239458)
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研究分担者 |
近藤 存志 フェリス女学院大学, 文学部, 教授 (00323288)
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研究期間 (年度) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | ヴィクトリア朝 / 文学 / 芸術 / 信仰活性 / 改宗小説 / ゴシック・リバイバル / 社会改良 / 19世紀 |
研究概要 |
本研究の課題は、近代社会には失われていた〈キリスト教信仰〉における「秩序」を再興させようとする風潮が生まれた展開について、それぞれ文学と芸術を専門とする立場から検討するものである。 平成24年度においては、〈信仰活性〉についての考察の第一歩として、「主題としての〈信仰〉」というテーマを設定した。ヴィクトリア朝期には、ウォード夫人のRobert Elsmereのような英国教会からカトリックへの改宗をテーマとした小説が数多く発表されたほか、ジョン・ヘンリー・ニューマンに代表される信仰生活を記した自伝的著述物が相次いで発表されるなど、この時代には〈信仰〉が文学的著作のテーマとなっていたからである。また、絵画においても、ウィリアム・ダイスやエドワード・バーン=ジョーンズらの画家たちによって、キリスト教信仰を本質的主題とする絵画作品がいくつも描かれ、建築の分野においても、A・W・N・ピュージンやG・E・ストリートらの建築家たちが自らのキリスト教信仰を文章によって表明した。このように、ヴィクトリア朝期の文化人の多くが近代社会に対して共通して抱いていた〈不安感〉と、それをキリスト教信仰によって解消しようとする意志とに源を発する動向に着目しながら、この時代に生み出されたキリスト教信仰を主題とした諸作品を通してヴィクトリア朝期特有の芸術文化における〈信仰〉の表現を考察した。 平成24年度の研究成果の発表は、向井は1件の研究会報告(日本オースティン協会関東支部研究会第7回例会)および論文1編(大学院紀要)の執筆を通して行った。また近藤は、海外における2件の学会報告(North American Victorian Studies Associationの年次大会、および、Interdisciplinary Nineteenth-Century Studies Conference)において行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成24年度は、二人の共同研究者がそれぞれ「主題としての〈信仰〉」というテーマを設定し、今後に展開していく予定の研究の基礎固めを行うことができた。 向井は、2013年3月に青山学院大学で開催された日本オースティン協会関東支部研究会第7回例会において、「啓蒙と読書、そして信仰―オースティンの『ノーサンガー・アベイ』とスコットの『ウェイヴァリー』を読む」において両者を比較し、19世紀初頭のイギリスにおいて広まった啓蒙思想がどのようにキリスト教信仰に影響を与えたのかを論じた。また、2013年4月に刊行された大学院紀要『Ferris Research Papers』第4号に「John Henry NewmanのApologia Pro Vita Suaを読む」という論文を投稿し、ニューマンに本書の歴史的意義付けを行った。また、近藤は、2012年9月に米国ウィスコンシン大学マディソン校で開催されたNorth American Victorian Studies Associationの年次研究大会においては“Luxury is the Enemy of Art: A Victorian Network of Medievalist Artists and the Ideal of a Simple Life of Retreat”、2013年3月には米国ヴァージニア大学で開催されたThe 2013 Interdisciplinary Nineteenth-Century Studies Conferenceにおいて“The Carnival of Competition: Between Hope and Despair in Nineteenth-Century British Art and Architecture”とそれぞれ題した研究発表を通して研究成果を公表した。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度以降は、引き続き、追加的な資料収集を行いながら、文献資料に基づく研究を継続し、研究成果の発表尾学術論文の執筆および国内外の学会等での研究発表を通して行う計画である。具体的には、平成24年度の研究を継続するとともに、「〈信仰的使命〉としての文芸創作」という第二の視点についても考察を開始する。ここでは、自らの文芸創作活動をキリスト教信仰に基づく使命と位置づけ、旺盛な創作活動を展開した文人、芸術家たちに注目し、文芸創作活動を通じてキリスト教信仰に基づく倫理観や人生態度の啓発をどのように目指したのかについて考えていく。 研究成果の発表については、平成25年度は、論文の執筆と平行して、次のような学会報告を予定している。向井は、日本英文学会第85回全国大会のシンポジウムにおいてオースティンの作品におけるキリスト教信仰のあり方をめぐる議論について、日本オースティン協会第7回全国大会のシンポジウムにおいてはオースティンの『高慢と偏見』における信仰の描かれ方について、さらに日本ハーディ協会第56回全国大会においてハーディの『ジュード』における信仰の問題について、それぞれ研究発表を行う予定にしている。また、近藤は、19世紀イギリスにおいてキリスト教の信仰活性の一環として興隆することになったゴシック・リヴァイヴァル様式による教会建築運動が、トマス・ハーディの建築家としての活動に与えた影響の大きさについて、日本ハーディ協会で報告する予定にしている。 また資料収集については、研究代表者、研究分担者の双方とも、平成25年度も国内外で継続して行う予定にしている。
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次年度の研究費の使用計画 |
平成25年度は、当初の研究実施計画に従って、海外での資料収集を追加的に行うとともに、成果発表のために国内外の諸学会の大会において研究報告を行うことを予定している(向井は仙台、大阪、茨城での学会発表を予定。近藤は茨城での学会発表を予定)。海外での資料収集は、研究の進捗状況に応じて、英国ケンブリッジ大学図書館(Cambridge University Library)、大英図書館(The British Library)、英国公文書館(The National Archives, Kew)などで行う予定である。 平成25年度の研究費の使用計画には、こうした資料収集および国内外の学会発表に伴う交通費および渡航費、学会発表費、資料の撮影費などが含まれている。 ただし、必要に応じて、予算の使用計画に一部変更を行うこともあり得る。例えば、向井は、平成24年度に購入予定であったパソコンを、平成25年度の予算に繰り越して購入することとした。
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