研究課題/領域番号 |
24520322
|
研究機関 | フェリス女学院大学 |
研究代表者 |
向井 秀忠 フェリス女学院大学, 文学部, 教授 (70239458)
|
研究分担者 |
近藤 存志 フェリス女学院大学, 文学部, 教授 (00323288)
|
キーワード | 信仰活性 / ハーディ / ディケンズ / ブロンテ姉妹 / 改宗小説 / ゴシック・リヴァイヴァル / イングランド国教会 / 自伝的小説 |
研究概要 |
本研究は、ヴィクトリア朝時代のイギリスで興った信仰活性の動きについて、小説を中心とする文学と、絵画と建築を中心とする芸術の両面から分析を行い、「信仰」の問題がヴィクトリア朝期の人びとによってどのように捉えられていたのかという点について理解を深めることを目的としている。今年度は、特にイギリスの小説家・詩人であるトマス・ハーディに焦点を当てた。ハーディは、作家としての活動を展開する以前に建築家として教会修復の仕事に携わっていた。その経歴に着目し、教会建築の専門知識を兼ね備えた作家として捉え直すことで、ハーディの文学と芸術における諸活動に、本研究のテーマであるヴィクトリア朝期のイギリス文芸における信仰活性の流れの影響を読み解くことを試みた。 具体的には、日本ハーディ協会第56回大会のシンポジウムにおいて、研究代表者(向井秀忠)、研究分担者(近藤存志)ともに発表を行った。このシンポジウムでは、小説史と建築史の両観点からハーディの後期の作品における主題としての「信仰活性」について論じた。研究分担者は、ハーディの同時代の建築家との交友関係に注目することでハーディ自身をキリスト教信仰に基づいて中世復興を志向したゴシック・リヴァイヴァリストとして位置づけ、そのうえで、ハーディが不可知論の立場から理性を重んじつつも、生涯を通してキリスト教信仰を失わなかったことを建築に関連する彼の言説を手掛かりに論じた。研究代表者は、ヴィクトリア朝時代に科学的発想から宗教的な懐疑心が深まれば深まるほど逆説的に信仰を真摯に希求する傾向が強まったことを指摘し、これまで一般的にキリスト教信仰に対する批判と解釈されてきた作品内の記述が、実際には当時の形骸化したイングランド国教会の体制に対する批判姿勢の表明として書かれていると論じた。本シンポジウムにおける成果は、さらに議論を深め、1冊の研究書にまとめる予定にしている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、おおむね順調に進んでいると考えている。 研究代表者は、初年度に資料収集と並行してジョン・ヘンリー・ニューマンに関する論文を執筆した。また今年度は、日本英文学会第85回大会のシンポジウムにおいて、ジェイン・オースティンの『マンスフィールド・パーク』を中心に、オースティンが描く牧師像に啓蒙主義思想の影響があることを論じた。また、日本オースティン協会第8回大会のシンポジウムにおいては、ヴィクトリア朝時代にオースティンの諸作品がその宗教的な姿勢が欠如していたことから批判的に読まれ、その後、「宗教的な素養を持った小説家」としてのオースティン像が形成されたことに着目し、ヴィクトリア朝時代の信仰活性の動きの一端を探ることができた。また、研究分担者とともに行った日本ハーディ協会におけるシンポジウムでは、これまで日本では反キリスト教的と理解されることが多かったトマス・ハーディの信仰に対する姿勢を小説家・建築家の両面から見直すことを試み、ハーディもまたヴィクトリア朝時代の信仰活性の潮流と接点を持ちながら創作活動を展開したことを論じた。ハーディについては、ダーウィンの進化論やショーペンハウワーの思想などの影響を受け、とりわけ後期の作品においては、キリスト教会に対する強い批判が明白に表明されていると考えられてきたが、19世紀中頃から20世紀初頭にかけてイギリスのキリスト教会に興った様々な信仰復興運動とその周辺で展開された文芸運動に注目すると、彼は生涯を通じてキリスト教信仰と密接な結びつきを保ちながら執筆活動を展開していることが見えてきた。近代イギリスを代表する作家であるハーディが、「キリスト教会」及び「キリスト教信仰」を生涯にわたって重要なテーマとして描き続けてきたことを丁寧に検討することで、イギリスのヴィクトリア朝時代における信仰活性の潮流の一端を掘り起こすことができたと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の3年目となる平成26年度は、初年度と2年目に行った口頭発表を論文としてまとめ発表するとともに、国内外の学会・講演会などにおける成果発表を行っていく予定である。また、本研究テーマに関するさらなる資料収集も国内外の研究機関において継続して行う。研究代表者は、シャーロット・ブロンテの『ジェイン・エア』をブロンテ自身の信仰告白の書、キリスト教信仰に基づく自伝的小説として読み直すことで、この作品もまたヴィクトリア朝期イギリスの信仰活性の文脈で評価されるべきであることを論じる論文を準備している。また、2014年6月には日本オースティン協会において、『マンスフィールド・パーク』を南米の現代作家の作品との関わりで取り上げることで、オースティン文学における主題としての信仰について再考する研究発表を準備している。これらに引き続き、ジョン・ヘンリー・ニューマンの改宗小説についての論考も論文にまとめる予定にしている。研究分担者は、東北学院大学キリスト教文化研究所第55回学術講演会(2014年6月)において、「近代イギリス芸術文化における主題としてのキリスト教」と題して、本研究課題の成果の一部を基にした講演を行うことになっている。これらの発表・講演内容については、昨年度・今年度と同様に、学会や講演会の終了後に、加筆・編集のうえ、順次、論文としてまとめていきたい。また、新たな研究成果については、本年秋以降に行われる国内外の学会において発表していく。
|
次年度の研究費の使用計画 |
研究代表者は、2014年度あるいは2015年度において、引き続き、さらに必要な資料収集をイギリスの大英図書館やケンブリッジ大学図書館などの海外の研究機関で行うための旅費を確保し、また、2014年度あるいは2015年度に海外で開催される国際学会に参加し成果発表を行うための旅費を確保するために、2013年度の使用割当分を繰り越すこととした。 研究代表者は、2014年度あるいは2015年度に開催される予定の国際学会(英国ジェイン・オースティン協会(The Jane Austen Society, UK)、北米ジェイン・オースティン協会(The Jane Austen Society of North America、北米ヴィクトリア朝研究学会(North American Victorian Studies Association)など)において研究成果報告となる口頭発表を行うことを予定している。また、これまでに引き続き、2014年および2015年度にも、大英図書館やケンブリッジ大学図書館などのイギリス国内の研究機関においてさらに必要となった資料収集を行うことを予定している。
|