ヴィクトリア朝時代の理想的女性は、「家庭の天使」という言葉で端的に表現されるように、天使的で純粋無垢であるとされた。本研究は、そうした女性の脱性化の動きが19世紀初期の女性作家たちにおいてすでに始まっていたことを、古典文学の受容の視座から考察した。とりわけフェリシア・ヘマンズやレティシア・エリザベス・ランドンのような女性詩人がオウィディウスの描くサッポーを大衆化し、商業化していく過程は、女性の脱性化の言説が当時の社会や文化に深く浸透してゆく過程と軌を一にする。両者の有機的な関係を検証することによって、19世紀初期における女性のセクシュアリティの商業化の実態を解明した。
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