平成26年度は、本研究の主たる対象である劇作家James A. Herneの戯曲研究と共に、同時代の劇作家であるBronson Howardの劇作手法について調査を行い、彼の提唱したリアリズムの独自性について考察を進めた。 Howardはその代表作として、南北戦争をテーマとした戯曲『シェナンドア』(Shenandoah)を著しているが、そのプロットと人物描写はメロドラマの類型に当てはまり、南北戦争の問題点を追及した内容ではない。しかし、国家的問題をメロドラマ化することによって大衆に迎合するかのようにみえる彼の姿勢は、劇作家としての彼の本意ではないと思われる。 上記のような視点は、『シェナンドア』とHerneの南北戦争劇『グリフィス・ダベンポート』(The Reverend Griffith Davenport)を比較することでより明確化する。ブロードウェイを中心とするアメリカ演劇界においては、大衆文化としての演劇と、文学および芸術としての演劇が対立しながらも共存してきた。このような矛盾を孕むアメリカ演劇の要素を具現化しているのが『シェナンドア』である。偶然性の連続する恋愛プロットや戦争の理想化などの要素が羅列されているものの、人物描写に善悪の明確な区別を排除し、観客や社会が戦争の真実を隠微するプロセスを示した劇作家としてのスタンスは、文学性の重視という観点に立つものである。さらに,ハーンの南北戦争ドラマは、家族および夫婦間の亀裂、個人の心的葛藤を南北の対立に準え、南北戦争をリアリズム戯曲に取り込むことを試みた。メロドラマと反メロドラマという異なる劇的技法を用いた両者の方向性は対立しているようであるが、二人の劇作家は、南北戦争というアメリカ独自の題材を用い、19世紀アメリカ演劇を大衆文化から芸術性を持つ文学作品へと高めようとする意識を共有し、アメリカ独自の演劇形式を模索した。
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